第4章 これで萎えない鬼鮫は凄いー鬼鮫ー
こう言われて鬼鮫はちょっと黙った。
「何です?どうしました?」
「本当にやった事があるんですか」
「突然直裁的になりましたね。はあ、まあ、ありますよ。さっきからそう言っているでしょう。くどい。延々とする話ではありませんよ、これは」
「誰とです?」
「は?」
牡蠣殻は呆れ果てた顔で鬼鮫を見上げた。
「それはいくらなんでも立ち入り過ぎですよ」
言ってまたくしゃみする。
鬼鮫はやおら牡蠣殻を掬い上げるように横抱きし、寝台の寝具を剥いでそこへ上がった。
「・・・あんまりいい趣味じゃありませんねえ、こういうやり方は」
上から囲い込んで見下ろしてくる鬼鮫をじっと見て、牡蠣殻は低く言った。
「いい機会だからあなたの肌を私の肌で確認しておきましょう。それだけの事です。何もしませんよ」
厚手のシャツを脱がせても牡蠣殻は抵抗しなかった。細やかな膨らみが露になり、首元で鬼鮫の着けた指輪の通った鎖がチャラチャラとなる。
自分も上着を脱いで上半身を晒して鬼鮫は淡々と言った。
「厭なら言いなさい。無理強いする気はありませんから。何も言わないのであれば続けますよ」
牡蠣殻の首にかかった鈍色の指輪を指先で弄びながら、鬼鮫は寝具を引き上げた。
「失礼」
抱き寄せると、また鎖が鳴る。
うすら冷たい肌が鬼鮫の肌にひんやりと触れた。
「冷えてますね」
「そりゃね。雨に降られりゃ冷えるでしょう」
「また泣いてますね?」
「泣いてますよ。理由は聞かないで下さい。例によって自分でもわからないんですから」
「聞きませんよ。わからないんでしょう?しかし厭なら言う事です。止めますから。言わなければ止めません」
同じ事をまた言って、肉が薄く引き締まった背中に掌を押し付ける様にして抱き締める。
骨格のはっきりした靭やかな感触。牡蠣殻の肌。
鬼鮫は高ぶりを覚えて息をついた。強いて息を吸い込んで気を落ち着ける。
思ったより自制が難しそうだ。思わず腕をほどいて牡蠣殻を離す。
目が合った。
牡蠣殻の泣き濡れた赤い目が笑った。
「・・・厭だと言ってませんよ?」
鬼鮫はハッとした。
牡蠣殻の目が人の悪い色で満ちる。鎖を鳴らして身を起こし、鬼鮫にいざりよる。
「干柿さん?私、厭だと言ってませんよ?フ。どうしました?」
鬼鮫は歯を食い縛った。