第4章 これで萎えない鬼鮫は凄いー鬼鮫ー
「わかるもわからないも、干柿さん初見から私に腹を立ててばっかりじゃないですか。叩くしつねるし吊り上げるし、何かっちゃすぐ息の根止めたがるし。考えてみればそんなんじゃよしんば思い会う仲でも色気のある展開になんかなりゃしませんよ」
言い募ってまたくしゃみをする牡蠣殻を、鬼鮫は呆れ顔で見下ろした。
「立ち入った事を敢えてお聞きしますがね。あなた、男女の経験はあるんですか?」
今度は牡蠣殻が呆れ顔をする。
「本当に立ち入ってますよ。それ聞いてどうしようってんです?不粋ですねえ」
「あなたがしおらしく人に身を任せるところなんて皆目見当がつかない。有り得るんですかね、そんな事?」
「私だってやるときはやりますよ。ガンガンやりますよ。やる程伸びる女ですからね、私は」
「・・・・どういうつもりでそんな言い方をしてるのか知りませんがね。あなたそれじゃただのアバズレですよ」
「アバズレ上等!」
「止めなさい。全く、何でもすぐ茶化して流すのはよくないですよ。人が真面目に話していればこれだ・・・がっかりしますねえ」
「何かすいませんね?しかし干柿さんももう少し話題を選んだ方がよろしいかと思われますよ。相手によっちゃひっぱたかれるような事聞いてますからね、貴方」
「ひっぱたきますか?」
「いいんですか?」
「駄目に決まってるでしょう」
「たまにゃいいじゃないですか。いっつも叩かれてばかりで、やさぐれますよ私は」
「会ったときからやさぐれっぱなしでしょう、あなたは」
「・・・ち・・」
「舌打ちはお止めなさい。みっともない」
鬼鮫は煙草くさい牡蠣殻の頭に額を載せて溜め息を吐く。
「結局こんな言い合いに終始してしまう・・・」
「そんなにいかがわしい行為に及びたいのですか。仕方のない人だ・・・」
「あなたにそんな事を言われるとは、つくづく情けない心持ちになりますね。そもそもこれではそんな空気になりようがない。あなたはっきり言って経験ないでしょう?他は隙だらけなのに、これに関しては異様にガードが固いというか、始めから辞書にないというか、手も足も出ませんよ」
「失礼な。経験くらいありますよ、私だって」
「見栄を張らなくていいですよ。経験がないのは別に恥ずかしい事ではありません」
「見栄なんか張ってませんよ。仰る通り経験のあるなしは恥ずかしいという言葉とは無縁です。見栄の出張る筋合いはない」