第25章 磯 其の三
皆が皆失せられる磯で、不失は巧者と同じ様に稀。稀だけれど、稀の種類が違う。
不失だからと差別されはしない。自分たちに出来る事を出来る範囲でするのが磯の矜持、出来ない者を出来る者が出来る範囲で助けるのはごく当たり前で、大多数が失せられる里、他者を連れて失せる功者の在る里においては至極少数の不失は大したお荷物にならない。
ただ不失に生まれついた当人が思い悩むだけ。
今里には私しか不失がいない。
亡くなった母の出自である潜師の親戚方、汐田の家に年頃になっても失せる兆しを見せない幼子がいるが、それもまだ定かではないから、やっぱり、今の磯には、私しか不失がいない。
功者の小さい女の子。
チリッと何処かが痛んだ。
この幼さで深水に推されて探索方を務めるこのコは、疑いようもなく将来有望な功者なんだろう。
なのに何で、こんな心ここに在らずみたいなぼうっとした様子でいるのかわからない。功者としての能力はあっても、中身はボンクラなのかしら。波平にもちょっとそんなところがあるけれど、功者ってそういうもの?シャキッと胸を張ればいいじゃない。何なら威張ってたらいいのよ。得意がりなさいよ。
そうしたら思いっきり嫌ってあげられるじゃない?
フッと牡蠣殻がこっちを見た。
その顔を見て、この小さなコが何を考えているかすぐわかった。
私に見惚れてる。綺麗だなって思ってるのね?
にっこり笑って見せたら、牡蠣殻は目を瞬かせた。
いいのよ。どうやら私は美人じゃないけど、綺麗らしいから。そんな風に見られるのは慣れてるの。
「磯辺はお友達はあって?」
親しげに話しかけたら牡蠣殻はまたびっくりしたように目を丸くして、それから気を取り直したように難しい顔をして考え込んだ。
さっきから何をいちいちびっくりしてるのかしら、このコ。
内心で変なコと呟きながら、にこにこしながら待っていると、牡蠣殻はうーんと唸りながらこう答えた。
「…いないように思います」
わからないコね。いるかいないかでしょ、聞いてるのは。ややこしい答え方して、流石理屈っぽい野師のコだけあるわ。
四つある磯の師族の中でも野師は際立って口が立ち、人を煙に巻くのが上手い。一体に磯は話術に長けた里人が多いが、その磯でも野師の減らず口は苦笑いで語られる程に掴み所がない。