第23章 クリスマスにならない(ぐだぐだ)ー暁ー
「尻に敷かれてなどいない。怖がっているだけだ」
「……駄目じゃねえか。まるで駄目じゃねえか?うん?」
「情けないかも知れないが駄目なんかじゃないぞ」
「……うん…?そうか…。そう…」
「そんな目で見るな。止めろ。俺は十分幸せなんだ。放っといてくれ」
「道端の雑草みたいですねえ…健気な事です…でッ」
鬼鮫に睨まれつつ頭を擦りながら紙袋を片していた牡蠣殻が、朗らかに笑ってペインにはたかれた。
「え、ええ!?な、何で叩くんです!?」
「叩きやすいのよねぇ、牡蠣殻は。何でかしら?獲物の匂いがするのよ。私もたまに意味もなく叩きたくなるもの」
柊の小枝をくるくる回しながら小南が異様に優しく笑った。
「鬼鮫の気持ちもわかるわ」
「一緒にしないで下さいよ」
鬼鮫が厭な顔をして卓の食材を抱える。
「大した迷惑をかけられてもいないのに私の気持ちを語るのは止めて欲しいですねぇ」
「迷惑をかけられて叩きたくなったら、息の根を止める気で叩くわよ、私」
「……あなたがそんなだからリーダーがハゲるんですよ」
「なッ!?何を言う!?ハゲてなんかいないぞ、俺は!止めろ、変なイメージを植え付けるな!」
ぎょっとして頭頂部を撫でつけたペインに、角都がスッと目を細めた。
「…ハゲは思いの外無自覚に進行するものだからな…。潜行する悪夢だ。白日の下に曝け出された日には何もかもが手遅れで、ただただ頭が眩しいばかり」
「ちょっとマジ止めて。ホント止して。変な暗示かけるな。自己暗示に捕まってつまずいちゃうだろ?取り返しつかないからね、ハゲたら。死んだ頭皮は生き返らないよ?」
「……何人もそういうヤツを見て来た…」
「長老の身の上でそういう事言うと洒落にならないのがわからないならこれ以上の長生きは控えるべきだぞ、角都」
「悲惨な事だな、ペイン」
「……好きな事言ってるがな。年寄りだからって大事にされるとは限らないんだからな?気を付けろ」
「特に大事にされてるとも思わないが」
「何だ、知ってたのか?」
「…やっぱりそうか。…ちょっとヘコむな…」
「ハゲなんか平気よ、ペイン。死んだ頭皮も穢土転生すればあら元通り」
「あはははは、通販みたいですねえ…なくなった毛根もホラこの通り、穢土転生、今なら初回注文に限り1980両、1980両…いだだッ」