第22章 厄介な誕生日
腕を伸ばして簪をとった鬼鮫が、牡蠣殻の髷にそれを挿そうとした。
「ぅおう!」
すかさず身を引く牡蠣殻に顔をしかめる。
「…今度はなんですか」
「いや、体が勝手に…」
「頭を刺したりしませんよ。今は」
「…今は?」
「うるさいですよ。動かない!」
「はい!」
「身なりに気を遣いなさいと書いたでしょう?地味過ぎるんですよ、あなたは。少し赤みを加えても大勢に変わりないでしょうが、ないよりはあった方がまだしもマシというもの」
「そうですかねえ…。そんな可愛らしいもの付けたら、反ってチンチクリンになりゃしませんか?」
「さあ、知りませんよ、そこまでは。兎に角、つけて歩きなさい。わかりましたね?」
「失くしちゃいそうだなぁ…」
「…そんなに頭に刺して欲しいんですか?」
「いや、そんなとんでもない。喜んでつけさせて頂きます」
慌てて手を振る牡蠣殻をじっと見て、鬼鮫は頷いた。意外によく似合う。
「大丈夫、マシになりましたよ」
牡蠣殻の頭に手を載せて、ふと笑う。
そんな鬼鮫を見上げて、牡蠣殻は口をへの字にした。耳が赤い。
「…ありがとうございました」
「変な顔で礼を言うのは止めなさい」
牡蠣殻の頬を抓って鬼鮫がニヤリと口角を上げる。
「可愛らしいですよ?」
「や、止めて止めて!止めて下さい!」
「何を?」
「何って…」
眉をひそめた牡蠣殻が考え込む。
「…何をでしょう…?」
「フ」
鬼鮫は牡蠣殻を抱き締めてまた笑った。
「面白いですねえ」
腕の中で俯く牡蠣殻が、首まで赤くなっている。
「たまにこんなあなたを見るのも悪くない。ねえ、牡蠣殻さん?」
「……私は厭です。こんな私は」
「厭ですか。それはますます悪くない。いい誕生日になりましたねえ。さあ、部屋に行きましょうか」
「な、何で?」
「祝い足りないんですよ」
「祝われ足りました。スゲー腹いっぱいです。腹が割れそうです」
「割ったらいいですよ。縫って差し上げます」
牡蠣殻をヒョイと横抱きして、鬼鮫は歩き出した。
「言ったでしょう?今日という日は煩わしい思いをするにやぶさかではないと」
「いーやーだー!止めて!止して!下ろして下さいィ!!!私はもういっぱいいっぱいです!!!」
「…クックッ。本当に可愛らしいですねえ…?牡蠣殻さん?」