第22章 厄介な誕生日
「何なら人面犬でも……」
「変な気を使わない!」
「はい!すいません!」
「こっちに来なさい」
「……大変申し訳ありませんが、私、実はあっちに用があ…」
「あっちってどっちです?」
「あ、え?はぁ、そ、そっちです…」
「こっちなんですね?」
「…え?いや、どっちかって言えばあっち……」
「こっちなんでしょう?」
「いや、そっちじゃなく、あっち……」
「こっちですよね?」
「……あの…」
「ガタガタ言わない!」
「…そんなイライラするくらいなら無理な早起きなんかしなきゃいいのに…。寝直したらいかがです」
「睡眠障害起こして木の上で寝るような人に何を言われてるんでしょうかね、私は」
「あんまり関係ないんじゃないですか、それ。何なんです、何で起きてきちゃったんです。寝てて下さいよ、頼みますから」
「今日という日は」
「あい?は?今日という日は?」
「朝から煩わしい思いをするのもやぶさかではない」
「それはまた…」
牡蠣殻は不思議そうに左右に体を揺らした。
「また風邪ですかぁだだだだだ!」
力任せに耳をつねり上げられた牡蠣殻が鬼鮫の腕を両手で掴む。
「何でそんなに乱暴なんですか、貴方は!ちょっとガタイがいいからって、やりたい放題じゃないですか!吊るのは止めて下さぁぎゃッ」
ビシッと眉間を弾かれて、牡蠣殻の棒杭のような体がよろめいた。が、鬼鮫に耳を引き戻されて倒れるには至らない。
「ダダダダダダダッ!!!耳!耳ィ!!!」
「痛いんですか?」
「いだ、痛くないとでも!?」
「いや、痛いと思いますよ。聞いてみただけです」
「イイ、イタ、イタチさーん!!!助けて下さあァァい!!!」
「イタチさんなら朝餉の豆腐を買いに出かけましたよ。今朝は湯豆腐と白粥です。良かったですね、好物でしょう?」
「嬉しい!嬉しいけど、それなら私、誰に助けて貰ったらいいんですか!?ちょっと耳の付け根から血ィ出てないですか!?か、かかか感覚がなくなって来たんですが!?」
「ああ、無理もありません。たった今、あなたの耳はもげました」
「じょ、冗談でもそんな事言うな!!洒落になんないんですよ、貴方が言うと!」
「ふん?信じないんですか?」
「信じません!歯の次は耳!?嘘でしょ?」
「嘘ですよ」