第20章 磯 其の一
正装するでもないいつもの竜胆色の着衣で、海士仁がそびえるように立っていた。
顔が馬鹿に蒼い。海士仁の想いは牡蠣殻のそれより格段に深く、また大人のものだったのだ。
「ひどい顔してるぞ、海士仁。ピッコロ大魔王みたようになってら。大丈夫か?」
藻裾が流石に心配そうな顔で歳近い叔父を見やった。
海士仁は茫然と藻裾と牡蠣殻を見比べる。
「・・・緑?」
「いや、ない。緑はない。大丈夫だ、海士仁。今のは汐田さんの冗談です。安心しなさい。せいぜいが青、海王様レベルです」
「そうか」
「・・・そうかって納得しちゃったよ、コイツ。重症だな」
「そう思うならいじるのを止めなさい。海士仁、汐田さんと帰った方がいい。そんな顔で祝いの席にいるもんじゃありません」
「ええ?何でアタシが!?」
「何でって貴女、コイツの姪ごさんでしょうよ」
「じゃあ縁切りますよ。スッパリ切りますよ!?ザックリ行きますよ!?アンタ心は痛まないのか!?それでいいのか、安倍内閣!!!」
「・・・・・馬鹿言ってないで早くお行きなさい」
「ヤですよ、牡蠣殻さん!飯が出んのはこれからなんスよ!?アタシが何で今日ここまで来たと思ってんです!?ヤダヤダヤダ!!!絶対ェヤだ!!!」
「家で食べて来なかったんですか」
「それとこれとは別腹にも程があるんスよ!?何言ってんですか、牡蠣殻さん!!!」
「何言ってんですかはこっちの台詞ですよ・・・わかりました。私が行きますよ。後を頼みます、汐田さん」
「飯食えんなら何でもしますよ。よろしく、牡蠣殻さん!元気出せ、海士仁!」
「・・・青?」
「あー、青いのは否定出来ませんね。でも安心しなさい。少なくとも緑ではありません。さあ帰りますよ。その様で長居したら祝いに来たんだか化けて出たんだかわからなくなりますからね。皆が当惑し出す前に行きましょう」
「磯辺」
「何です」
振り返りかけたところを抱きすくめられて、牡蠣殻の髷がビョッと飛び上がった。
「ちょ、止めろ、バカ海士仁ッ。相手が違う。同じ錯乱するならより良い相手を見分けなさいッ!うへ、触るな!・・・・・・私は触られるのが大ッ嫌いなんだッ、バカッ!!!知ってるだろ!?」
「耐えろ。同じだ。深水師と」
「馬鹿言え。お前は医師の卵、先生は医師だ。全然、全然違う」
「不憫な」
「あぁ!!??」