第1章 俺が従順な犬になった理由
体が跳ねた。
柔らかい感触が背中にぴたりとひっついて、
その小さな手が俺の腰に回される。
思わず抱き返したいし、その手を握りたい。
反射で動きそうになった自分の手は、名残惜しむようにシーツをくしゃりと掴んだ。
「凄い。背中越しなのに心臓の音聞こえる」
「あ、あたりめーだろ、こんなん…」
むしろ泣きたいくらいだ。
こんな触り縛りのゲーム。正攻法で攻略したい。まじで。
「昔を思い出すね。あの時はフジも私とそう体格変わらなかったのに、いつの間にこんなでかくなっちゃったかなあ」
「男だからね」
「女の子に触れないなんて情けない男になったねー」
「誰のせいかな!?」
彼女が笑うと、背中に伝う体温まで上下に動く。
ちょっとした動作で狂わされる。
酒で酔って眠くなるどころか
酒の勢いでどうにかしてしまいそうだ。
「こんなに変わっちゃったのに、気持ちは変わってくれないのね」
背中を撫でる小さな手。
「俺こう見えて一途だからね」
「そんなに私って良いところある?こんなに突っぱねてるのに」
「あ、やっぱ自覚もちながらだったのそれ」
妙に冷たい時があるとは思ってたけど、やっぱりわざとだったみたいだ。
「だって諦めてくれないんだもん」
「そう簡単に諦めるほど半端な気持ちじゃねえし」
「私のどこがいいの?」
どこ、か。
いつも余裕そうで、意地悪いところもあるけど
俺にとって全てが魅力的だ。
「繭子だから。」
お前が、俺の好きなお前だから。
「なんかずるい答えね」
でも、と彼女は言葉を続ける。
「そうやって純粋に人を好きになれるのは、羨ましいわ」
俺は彼女に背中を向け、彼女は俺の背中に頭を押し付けている為、顔なんて見えないけど。
もしかして彼女は今、寂しい顔をしてはいないだろうか。
「繭子?」
俺は少し上体を動かして後ろを振り向こうとするも、
彼女ががっしりと俺を抱きとめているので少ししか動けず、
顔をみることは叶わなかった。
「私、人が嫌いってわけじゃないの、怖いの」
彼女に怖いものがあるとするならば
それは彼女以上に美しく、魅力的なものだろうと、思っていた。
「繭子、」
彼女の小さな手が、俺のシャツをギュっと掴んだ。