第1章 俺が従順な犬になった理由
「うまい!!!」
好きな子の手料理だから、という補正もあるだろうが
本当に美味い。
テーブルに並べられたのはグラタンとサラダとスープ。
文句の付け所がない綺麗さと美味さ。
ああもうほんと嫁に来い。
「出来合いのものでもなんとかなるものね」
隣同士、二人用ソファに座っての夕食。
たった数センチの間をあけてはいるが、少しでも手がぶつかったらゲームオーバーなんだろうな、と
食事中であろうとも気を抜けてはいけない。
『触ってはいけない』というこのルールが
どこまでの判定をかするかが解らない内は隙を見せてはならないのだ。
全てはキスの為。繭子とのキスの為!!!(食い気味)
「そこまで気張らなくてもいいよ、ご飯くらいリラックスして食べてほしいな」
「俺だってそうしたいけど、これがゲーム実況魂だからね」
「ふーん、じゃあ今の状況をどうぞ実況してください」
急にそう言われてもな。
「夕食が非常に美味しいです。ですが隣に座っておられます繭子さんの方が非常に美味しそうです。味見くらいダメですかね」
「ゲームオーバーになりたいならどうぞ」
ニコッ
ああ可愛いよう…小悪魔だけど可愛いよう…。
明日の朝本当に覚えてろよお前。
「さてと、お風呂入る?一緒に」
「ぶふっ!!!」
「うわ、スープ吹かないでよ。冗談だって」
「お前が言うと冗談に聞こえないんだってば!」
「やだな、流石に恋人でもないのに一緒に入る気にはなりませんよーだ」
ま、まあ確かに…。
でもキスはいいのか?明日するんだぞ?ゲームに勝ったらだけど。
ああ、そうか、ゲーム感覚なのか、これ。
飲み会の王様ゲームみたいなノリなのか。
「お茶碗洗っておくから、先にお風呂行って。お酒のおつまみでも作っておいてあげるからさ」
「まじで!それ楽しみ!」
わあ、なんだこれ。
夫婦生活みたいじゃん。
もう満喫したい。一晩と言わず、ずっと満喫してたい。
あああああくそ、普段別に手なんて出してないけど
触っちゃダメって言われると触れたくなる。
台所に立つ彼女を後ろから抱きしめたくなる。
「(これは酷い生殺しだ…)」
挫折しそうな気持ちを振り払うように
俺は風呂場へ向かった。