第1章 俺が従順な犬になった理由
「繭子抱き心地よすぎ」
「もう完璧ルール無視ね」
「いいよもう。ゲームなんてしなくても繭子を恋人にしたらすり減るまでキスしまくる」
「なにそれ超こわい」
繭子を胸に抱きながら、片手で髪を弄る。
俺と同じシャンプーの匂い。
『恋人じゃない』、ただそれだけの一線が
未だにゲームを続けている感覚に陥る。
彼女に触れることが出来ても
未だその心は、この胸に抱けない。
「ガキの頃から、繭子はいつも凛として前を見据えてて、怖いものなんて無いんだとばっか思ってた」
「さすが私ね。なりたい自分をちゃんと演じれたわ」
でも、
「もう、怖がっていいよ」
怯えていい、泣いていい。
せめて俺の前では。
「今まで、繭子の寂しさに気づいてやれなくてごめんね、これからは、怖いなら怖いって、寂しいって、痛いって、言っていいから」
「…なにそれ、惚れちゃう」
「惚れていいよ」
「んー、それはやめとく」
「なんでさー」
一筋縄ではいかないのが、彼女の魅力のひとつでもあるんだけどね。
「ありがとう」
彼女は穏やかに笑った。
今日は幾度となく悪魔のような笑みを見てきたが
こんなにも優しい笑みを突然向けてくるのは、卑怯だ。
「好きだよ」
耳元に口を寄せて、囁く。
一瞬彼女の体が強ばった。
「?」
ほう、これはもしかして。
「…耳弱い?」
「…そ、そんなことない」
ふっと息を吹きかけてみると、小さく「ひゃ」なんて可愛い声で鳴いた。
…なにこの生き物可愛すぎるんだけど。
「弱点発見~」
「弱点じゃない!もういい加減離れろ!」
そんな簡単に離すわけないでしょ。
俺は身じろぐ彼女の耳にキスをする。甘噛んで、息を込めながら何度も好きだよ、と囁く。
我慢しきれてない彼女の声が小さく漏れるたび、
「(やべ、とまんね)」
俺の手は彼女の腰に周り、するりとシャツの中へ。
それは徐々に白い肌を滑る。
「わ、ちょ、フジ?!」
赤面し、驚く声を出す彼女。そんな仕草さえ刺激的だ。
たまらず俺は首筋から胸元にキスをする。
「大事にしたいけど、もう限界。嫌だったら、全力で跳ね除けて」
彼女の上に覆いかぶさり。
その小さな手を拾い、指先にキスを落とした。