第1章 俺が従順な犬になった理由
「嫌に決まってんだろ調子に乗んな。」
ゴッ!!
声に出ない鈍い痛みが、あろうことか俺の股間に。
「~~~~!!」
「あのね、恋人でもないのにキスもえっちもしません。そんなに軽い女じゃありません」
甘い夢から一気に現実に戻された気分だ。
彼女は「じゃ、もう寝るね」と背中を向けてしまうし
俺はめちゃくちゃやる気満々だった為消化不良だし。
っていうか股間が痛い。動けない。
「あれ、そんなに痛い?少し加減したんだけど」
「痛いからさすって」
「死ね」
今度は枕が飛んできた。
すみません。発言がおっさんだった自覚はあります、すみません。
「…じゃあさ、なんでこんなゲームしたの。万が一俺が耐え抜いたらキスしたんだよ?」
「そんなのさせるわけないじゃん」
本日何回目だろうこの悪い笑顔。
「我慢したとして、寝てる間に寝返って触ってきたー、とか言うつもりだったし」
「はあ!?」
「あと転んだふりして起こしてもらうとか、フジのおかん属性を利用した攻撃をしかけようと思ってた」
そうだよ、そういう女だよお前は。
「最初からさせる気なんてさらさら無かったわけね」
「当たり前でしょ、そういうことはちゃんとお付き合いしてからするものよ」
せいぜい頑張れ、なんて他人事のように言い放って。
まあいいけどね、なんだかんだ言いながら繭子との距離が縮まった気がする。
触れて話して抱きしめて、
今まで言葉で好きだ好きだとしか言えてなかったけど
温もりで想いを伝えるっていうのは
とても、心地のいいものだった。
「緊張しっぱなしのフジ、見てて楽しかったよ」
「お前ほんとキヨに似てきたわ」
「じゃあフジはキヨのことも好きなの?」
「そーーーーじゃねえよ!!!」
「あははっ」
ふたりで天井を仰ぐ。
安っぽい蛍光灯がぶら下がっただけの天井は
今だけは、煌びやかな星空よりも、特別なものに見えてくる。
隣に、お前が居るから。
「どうやったら繭子は手に入りますかね」
「どうでしょうね、攻略サイトありますかね」
「ゲームは自力でやってなんぼです」
「じゃあ頑張ってください」
ふざけた口調で、必死な問い。
やっぱり答えは自力で見つけるしかない。
「次こそクリアする」
程なくして、眠りについた。