第9章 罪人
混ざり合う唾液が甘く感じるのは気のせいか……
朽木白夜は優姫と唇を合わせながら思う。
いつからか、優姫を特別な気持ちで見ていたのは。
隊舎に顔を出す度に淹れてくれたお茶が美味くて、隊士の治癒に真剣にひた向きに臨む姿が美しくて、瞳を奪われた。
彼女の霊力に触れた時に感じた温かな春の陽射しに包まれるような安らぎ。
無邪気な瞳に見つめられれば早鐘をうつ鼓動に居心地が悪くなって、つい冷たい言葉を吐いた。
そんな私にも微笑んで向き合う彼女がどうしても気になった。
側に置きたいとさえ思う。
緋真を亡くしてからこんな気持ちになることなどもう無いと思っていた。
その肌に触れたいと渇望する。
雄の本能で求めるような衝動。
今日も優姫を名指しで呼ぶなど、らしくないことをしている自覚はある。
ただ、ルキアを捕縛せよとの任務を与えられてからざわつく気持ちを、彼女の顔を見たら抑えられるような気がした。
顔さえ見られたら十分だと思っていたとき、不意に抱き締められた。
温かく優しい腕に包まれた時、この上もないような幸福感が身体を巡った。
彼女のいたわる気持ちが伝わってきて、どうしようもなく愛しい気持ちが込み上げて、肌に口づけた。
優姫が手を引いて嫌がれば、そこでやめられた。
妻がいた身で不埒な男だとなじってくれたら諦めただろう。
しかし、彼女はどちらもしなかった。
触れた唇の甘さに目眩すら覚える。
口づけとはこんなにも甘く、幸せなものだっただろうか?