第1章 キラワレモノ
「まずは一人目…」
(チッ…めんどくせぇな…)
優雨がスゥ…っと大きく息を吸い込むと、なんと優雨の身体はみるみるうちに耳と9本の尻尾が生え、狐のように変化していった。そして普通の人間には聞こえない声で鳴いた。
「…コーン!コーン!(翠月!翠月!)」
その直後、なに食わぬ顔で一匹の雌狐が現れた。
すると白い毛並みの少し小柄なその雌狐は、人間のように姿を変えた。
優雨にそっくりなその狐は、優雨と同じように耳と9本の尾を生やし白い毛並みを震わせた。
(狐の鳴き声…!近いわね)
優雨が玲奈の気配に気がついた。
「っ…!(狐巫女!?)」
「優雨、こっち!」
優雨の目の前に現れたその女性は、自らの羽衣で優雨を包んだ。
その瞬間、優雨の身体は結界のようなものに囲まれ、玲奈から見えなくなった。それどころか、匂いすらも消えていた。
「えっ…どういうこと?確かにさっきまで近くにいたはずなのに…消えた!?」
「「……」」
玲奈はあたりを見渡した。
玲奈は知らなかったのだ。妖狐もまた、狐巫女の存在を感じることができるということを。
「気のせい?そんな…」
玲奈はしばらく考え事をしていたが、やがてその場から去った。
「ありがとう、翠月(みづき)」
翠月は羽衣の結界を解いた。
「別に構わないけど、狐巫女…なんで…」
「そのことを伝えたくて呼んだんだよ」
「なるほどね」
偶然にも、300年に一度の狐巫女と妖狐が、同じ年に生まれてしまった。しかし妖狐は一人ではない。
ここにいる翠月も、妖狐だ。
彼らは
双子だったのだ。