第1章 キラワレモノ
「君…妖狐でしょ」
「…」
妖狐。化けギツネ。
優雨が住んでいるところ (ちゃんとした小中高はあるものの、ほとんどここはど田舎。村と言ってもいいだろう。)では10年に一度、狐の神様を祭る狐神(キツネガミ)祭があった。
村人達は狐神様を祭ることで、いざというときに災害などから狐神様が守ってくださると信じてきた。
そして300年に一度、狐神がこの世に舞い降りると言われていた。その狐神、古神 蔵馬(こがみ くらま)の子供が
妖狐である、優雨だった。
妖狐は人々に『災いをもたらす』と忌み嫌われ、避けられてきた。
しかし妖狐は、村人達に気づかれないように普通の人間に化けている。
普通の人間にはわからないはずだった。
「…なんでわかった?」
「わかるわよ。だって私、狐巫女(きつねみこ)だもの」
「っ!?」
優雨は驚きのあまり声を失った。
━狐巫女だと?━
狐巫女は妖狐と同じ、300年に一人の確率で産まれてくる神の子。狐神と巫女神は共に、村を守ってくれる神様として祭られてきた。
そう、妖狐はいわゆる…
失敗作。
狐巫女は妖狐を、自らの手で殺さなくてはいけない。
しかし300年に一度産まれる二つの神様が一緒になることは本来ありえない
ことのはずだった。
「お前も俺を殺すのか」
「えぇ。場合によってはそうなるかもね。でも安心して、学校では殺さないから」
優雨は表情ひとつ変えずに、フン…と鼻で笑った。
━なるほどな、狐巫女なら俺の正体が余裕でわかるってことか━
(どっちみちそろそろ行動しようとしていたところだ。俺を忌み嫌い、殺そうとした大人達に復習するために…)
これから楽しくなりそうだ…
「お前、名前は?」
「櫻井 玲奈(さくらい れな)」
優雨は少し笑った後、その場を立ち去った。
その姿はまさしく、狐そのもののようにも見えた。