第5章 ミコノチスジ
蒼風と紅風は驚きを隠せない。
2匹は思わず優雨と翠月の服の中に隠れた。
「月夜の白猫をひらがなにすると『つきよのしろねこ』だけど、並べ替えると『きつねのころしよ』になる。このままじゃわけがわからない。でも夜って『や』とも読めるわよね? もし、夜を『や』と読むんだとしたら、出来る言葉は」
「キツネの殺し屋…まぁかなりのヒントはあげたつもりですし、妖狐なら当然ですね」
不敵な笑みを浮かべる。
初対面であるはずなのに、どこか懐かしげな面影が優雨達の記憶にちらつく。
嫌な予感がする。
━何者なんだこの男…それにあの女に似たオーラ…こいつ…━
「優雨!こいつなんかおかしいよ!玲奈姉ちゃんと同じにおいがする!」
優雨の影に隠れていた蒼風がそう叫んだ。
青年が立ち上がると同時に優雨と翠月は戦闘体制に入る。
そして先程まで普通の人間の姿をしていた2人は妖狐に姿を変え、青年と距離を取り始める。
「そんなに警戒しないでください。この際なんで本当の名前名乗っておきますね」
次に青年が発した言葉に、翠月と優雨は言葉を失った。
「僕の本当の名前は櫻井 要(さくらい かなめ)。狐巫女である櫻井 玲奈の弟です」
なんと要と名乗るその青年は、狐巫女である玲奈の弟だった。
幼い頃に玲奈と離ればなれで暮らすことになり、何年か前までは玲奈と連絡を取り合っていた。
しかし玲奈から送られてきた一通の手紙で、要は両親の死を知ることになった。
両親は妖狐に殺された…と。
そして要は、妖狐である優雨と翠月に復習する道を選んだのだ。
「それにしても驚きましたよ。僕にも狐巫女である姉の血が流れてるんだって改めて感じました。 まさか貴方たちの気配を感じることができるなんて」
自らの手を嬉しそうに見つめる。
自分にも妖狐を殺す力があるのだと思うと、嬉しくてたまらない。
募りに募ったこの恨みを、今ここで晴らせる。このチャンスを見逃すわけにはいかないのだ。
「貴方たち妖狐のこと、色々と調べさせていただきました。どうやらあの村でたくさんの人々を殺してきたようですね。僕の両親もまた、その一人…」
(この男…背後にただならぬ気配を感じる…もしかしたら相当厄介なことになりそうね…)