第3章 ネムリギツネ
妖狐は基本的、聖なる炎か、もしくは狐巫女がかざす札によって倒される。しかし玲奈が放ったのはごく普通の炎。あれがもし、聖なる炎であったらきっと、妖狐である2人はひとたまりもないだろう。
玲奈はわかっててわざと、普通の炎を放ったのだ。
「さて、そろそろ終わりにさせてもらう」
言う間もなく、優雨の9本の尾の1本が玲奈の腹を突き刺していた。
数年前戦ったあの時の何百倍ものスピードで。
「なっ…櫻井っ!!」
蓮が気づいた時にはもう、玲奈の腹は優雨の尾に貫かれ、緋色の鮮血が滴り落ちていた。
「「きゃあああああ!!!!」」
「「うわあああああ!!!!」」
一斉にあたりは悲鳴で埋め尽くされた。
「これだから哀れだよなぁ人間ってのは…」
恨みが募る。
俺らだって好きでこんな姿で生まれてきたわけじゃないのに。
好きで妖狐になったわけじゃないのに。
俺らだって他の人と同じように…生きたかったのに…
どうしてお父さんは狐神なのに、子供である私や優雨は妖狐として生きなきゃいけないの?
どうして私達だけが殺されなきゃいけないの?
私達だって他の人と同じように…生きたかったのに…
「本当は誰一人として…」
「「殺したくなかった」」
ドゴォッッッ!!
突如、蓮が優雨の頬を殴った。
そして胸ぐらを掴み、怒鳴りつけた。
「てめぇ…それがどういうことかわかってんのか…!!人を殺すことに…なんのためらいもねぇのかよ!!!!櫻井は…櫻井はお前のこと…」
蓮の目には、たくさんの涙が溢れていた。
村人は玲奈を部屋の隅の方に非難させ、腹部を布で抑え血を止めようと試みている。