【最俺&アブ】実況に手を出したら大変パニックなことになった。
第3章 人気者の苦痛
「皆さんこんばんわ!明日は土曜日だ!夜更かしする用意はできたかー?!」
<お菓子とお酒完備です>
<今日は寝かせない>
<ぴょこ太今日はなにするのー?>
「今日はお絵かきしたりゲームしたり雑談したりまったりするぞお~!」
金曜日の夜とは良いものだ。いずれ来てしまう月曜日という現実を一時的に忘れさせ、人に自由を与える。
かくいう私もそんな金曜日に浮かれこうして生放送をはじめていた。
最近はイベントに出たり人様のチャンネルで放送したりとてんやわんやな日々を過ごしていたけれど、やはり自分のチャンネルで何も縛られず自分のペースで放送できる、この場所が、この時間が好きだ。
<今日は最俺メンバー来ないのかな>
<ぴょこ太ひとりだとちょっと寂しいね>
「確かに最近あの人達と一緒に居る事が多かったからね~でもでも、それは麻痺だよ麻痺!私だけでも楽しませてやんよー!」
いいぞいいぞと声援のコメントを貰ったけど、少しだけチクリと刺さる。別に自分の人気など気にしてはいないけれど、最俺ありきの私だと思われてしまうのは、少し複雑だった。
最俺があったから、今の私があるのも事実だ。
けれど、少しだけ、面白くなかった。
***
「繭子~放送お疲れ様~」
「あれ、お兄ちゃんまだ起きてたの?」
午前4時。放送を終えて部屋を出ると、リビングでお酒を呑んでいる兄がいた。
「繭子の放送見ながら動画編集してた(`・ω・´)b」
「なんて器用な事を・・・」
「今日も面白かったよ~!やっぱり今度アブさんと一緒にコラボ撮ろうよ~!」
「やだよ・・・こんなのがお兄ちゃんだなんて知られたくないもん」
「心底嫌そうな顔で言われるとそろそろ傷つくよ???」
コラボは実際楽しそうだとは思っていた。けれど、どうしても考えてしまう「迷惑」そして・・・。
「私は、私の実力で・・・」
「・・・繭子?」
「・・・なんでもない」
人気グループの最俺、そして人気実況者のアブ。
最近までただの一般人だった私が、この間に入る勇気はなかった。
別にアンチが怖いわけじゃない。
ただ、自分の居場所や立ち位置があやふやになるのが嫌だった。
「繭子は真面目だなあ」
兄はそう言って頭を撫でて笑った。