【最俺&アブ】実況に手を出したら大変パニックなことになった。
第3章 人気者の苦痛
店を出るとすっかり陽は落ち、月が見えていた。
「遊びすぎた…腹筋が痛い…」
「繭子は笑いすぎ」
「いや、最後にこーすけさんが着たメイド服がもうトドメをさしてきて笑い死ぬかと…」
「気付けば殆ど俺のコスプレ大会になってたのが理解不能なんだけど!って、ああもうスマホの電池ねえや」
互いに写真を撮り合ってたせいか
二人のスマホは放熱し、電池残量はあとわずかだった。
昼間は賑やかだった商店街も
今は人通りが少なく、どこか寂しげなものに見える。
楽しい時間というものは、本当にすぐ過ぎ去るものだ。
「それはそうとさ…予測はしてると思うんだけど」
「なんです?」
「なんかすげえ言いにくいなこれ、みんなどう言ったんだろ、ほら、敬語とかさ」
「ああ!みんな敬語はいらない、名前も呼び捨てにしてほしいって言われましたね。えっと…こーすけさんもそうした方がいいです?」
「勿論!!俺も仲間に入れて!!」
「わかりまし…わかった!えっと、こー…すけ?」
「上出来!」
こーすけは嬉しかったのか、今日一番の笑顔で私の頭を撫でる。
自分だけあまり私と接点なくて
自分だけ敬語とかで、
そして拗ねて。
彼はおふざけも一人前だけど、最俺のまとめ役としてしっかりしていたからこそ、そうこれはギャップ萌えというやつなのか。
凄く可愛い人だ。
「でも最俺ってもの好きだよね、こんな新人実況者とつるもうだなんて。嬉しいけどさ」
「実況とかそういうのじゃねえって。なんだろうな、お前は気づいてないかもしれないけど、魅力っていうか、人を惹き付けるものを持ってると思うよ」
「煽ててももうコスしないよ?」
「そうじゃなくって、繭子は…」
こーすけは足を止めた。
途切れた声は何か突っかかってるみたいで。
「こーすけ?」
「…いや、まさかな…」
「?」
再び歩き出す彼についていくと駅が見えた。
「あ、私ここで」
「おう。今日はありがとな!」
「こちらこそ!じゃあまた!」
小走りで駅に向かっていく彼女を見送りながら
「拗ねて、デートしたくて、必死に写真撮って」
手元の画面にあるのは大学前に居た彼女の横顔の写真。
「これを友情って終わらせていいのかね」
彼の中で、何か新しい気持ちが芽生えつつあったことを
誰も知らない。