【最俺&アブ】実況に手を出したら大変パニックなことになった。
第3章 人気者の苦痛
いつもは可愛い、可愛いと。
思っていた彼が。
「繭子ちゃんは、油断しすぎだよ」
いつの間にか、男性になっていた。
人って表情ひとつでこんなにも変われるんだなと、呑気な私は彼の顔をぼんやり見上げていた。
「えっと・・・あの、ヒラ、」
ようやく出た声は掠れていた。
今の状況を飲み込めた時には、私は顔から湯気どころか火でも出てしまうのかという位に真っ赤だった。
その様子に満足した彼は、いつも通りふわりと笑う。
「別に油断してくれたっていいけど、僕がいつまでも『可愛いヒラ』でいられるかは別の話だってことは、言っておくね」
それは天使の笑みか、悪魔の笑みか。
それともヒラという男の本性が見せた笑みなのか。
私は裏返った声で返事をすると、彼は優しく私の体を起こしてくれた。
「えへへ、勢いで押し倒しちゃった。ごめんね~」
「…す、すすすすごいびっくりした・・・」
「顔真っ赤でかーわいー」
「意地悪言わないでください!」
「あはは、緊張しすぎて敬語に戻っちゃったね」
彼は、ごめんごめん、と私の両手を握って小さく上下に振る。
やはり、そういう仕草は可愛らしくて、優しい気持ちになれるのだけれど、
彼に「可愛い」は禁句なのだろうと悟った。
「キヨも、フジも、こーすけも。男らしくてさ、面白くて、個性もあって。コメントでいつも僕が空気ぶち壊してる、最俺にいらないって言われちゃうんだ」
彼は私から視線を外す。
「浮いてるのは自分でも解ってるけど、3人とも、決して僕を嫌ったり、ハブこうとしたりはしない。繭子ちゃんもそう。こうやって一緒に居てくれる」
いきなり何の話だろう?と思いつつも、私は小さく頷いて言葉の続きを待った。
「そんなみんなに、何かしてあげれる事は無いかっていつも探してるんだ。でも僕は本当に個性がなくて、なよなよしてて、あまつさえ繭子ちゃんには男にも見られてなくて・・・」
「な、なんかごめん…」
なるほど、私は悩んでいた彼にとどめをさしていたのか・・・
「あのね、ヒラ。私は貴方を無個性だとは思わないよ」
「そう、かな?」
「周りのキャラが強烈すぎるだけであって、ヒラに何もないわけじゃない」
お兄ちゃん、言葉借りるね。
「ヒラがここまで来れたのは、努力と、持ち前の魅力があったからだよ」