【最俺&アブ】実況に手を出したら大変パニックなことになった。
第3章 人気者の苦痛
「…お兄ちゃん?」
ゲームオーバー画面が奏でるオルゴール風のBGMが
どこか切ないせいなのだろうか。
ふざけてばかりの兄が、
心の底から「寂しい」という感情を、ぶつけてきている気がする。
「お兄ちゃん、泣いてるの…?」
私はそっと彼の胸を押して、顔をのぞき込む。
すると、そこには涙などなく。
優しく笑みながらも
やはりどこか寂しそうな顔があった。
「まさか。なんで俺が泣くの?」
わからない。
でも、そんな気がした。
兄の手が、私の頬を撫でる。
ちょっとくすぐったくて、私は肩を少し上げる。
それでも彼は両手で私を撫でる。
されるがままにされていると
なんだか妙にドキドキしてきてしまった。
「可愛い」
「?」
「繭子は、可愛いね」
今度は急に褒めてくる。
こいつがシスコンなのは周知の事実だ。
だからこそ両親も、
「一人暮らしなんて危険よ、お兄ちゃんと一緒に住みなさい。お兄ちゃんなら凄腕のボディーガードにもなるわよ」
とか言って、私の自立を台無しにさせたものだ。
とにかくどういうわけか妹離れ出来ないのだ。
悪い虫は排除とか言って男友達と話すだけで目を光らせるし
帰りがいつもより10分遅いだけでパニクるし。
「お兄ちゃんってなんでそんなシスコンなの?」
そういえばはじめて聞いてみたかも。
ずっと思ってた疑問なのに。
「そりゃ、繭子のことが大好きだから」
「そんなこと言ってるから結婚出来ないんだよ」
「ちょっとグサっときた色んな意味で」
「お兄ちゃん今年でさんじゅ」
「それ以上言ったら必殺!今日はまだ剃ってない髭攻撃!」
「やめてー!痛い痛い痛い!ほっぺ削れる!」
じょりじょり。髭による頬ずり攻撃。
昔お父さんに同じことされたなあと思うと、この人は父似なのかもしれない。
「結婚なんて出来なくていいし」
「お母さん泣くよ」
「俺は今が一番楽しいの!」
ぽふ、と顔面を枕に突っ込むと、
顔だけこちらに動かして、真顔になる。
「俺は、今が一番幸せだから」
じゃあ何で?
「何で泣きそうな顔してるの?」
私には解らない。
なんでそんなに寂しそうな顔で笑うのか。
「…今日はもう、寝よっか」
なんでその理由を、言わないのか。
全ては消された電気の中へ消えていった。