【最俺&アブ】実況に手を出したら大変パニックなことになった。
第3章 人気者の苦痛
「よ、よし、始めるよ…?」
「タイトル画面から震えてんじゃん無理すんなよ」
ちなみに私は諦めている。
逃れられないからだ。
今私はどういう状況なのか説明しよう。
あれから兄の部屋に拉致られた私はそのまま布団に突っ込まれた。
すかさず兄がすんごいキラッキラの笑顔で隣に潜り込んで
手馴れた手つきでロングマフラーを腰に巻き付かれたのだ。
つまり私の腰と兄の腰が縛られており、しかも結び目が兄側にあるため取れない。抜けられない。なにこの束縛プレイ。
そのまま布団をかけられて、二人でうつ伏せになって頭だけ出している。
すぐ前にTVとゲーム機があった為、
先ほど言ってた通りホラーゲームをすることになった。
だがしかしこの兄妹。
ホラーは大の苦手だ。
「ぎゃああああああああああああ!!」
「ひゃあああああああああ!!」
プロの悲鳴×2。
近所迷惑にならないだろうか。
勘違いされて警察呼ばれたりしないだろうか。
別の意味でもドキドキしていた。
「お兄ちゃんの悲鳴が一番びびるんだけど!」
「だって怖いんだもおおおおおん!!」
「じゃあやるなよ!!」
「だって、こういう時じゃないとさあ」
TV画面に向けられていた視線は、隣に寝そべる私の方に降りる。
「俺を頼ってくれないでしょ?」
によによ、っと笑うその目線は私の手に移動する。
その手は無意識に、兄の服をしっかりと掴んでいた。
ばっと音を立てて離すと、彼は更ににへらっと顔を崩して笑う。
助平な顔してんなほんと。
「ち、違うのこれは…こう体が密着してると、手の置き場にも困るっていうか、丁度良い位置にお兄ちゃんの腕があってだな」
「はいはい、怖くてつい掴んじゃったんだよねえ」
「ぐぬぬ…」
「もっとくっついてきてよ~!ほら、離れることは出来ないけど抱きついたりは出来るでしょ?」
「しません」
「じゃあ俺からするー♪」
「いやー!!」
ゲームオーバーの文字が流れる画面を放って
兄は私を包み込むようにして優しく抱きしめる。
「子供の頃は、ただ何も考えずに無邪気にこうしてたのにな。一緒に寝たり、お風呂に入ったり、抱きしめ合って、頬にキスしたり」
兄の顔は見えない。
「いつの間にか大人になって、どんどん許されなくなっていくね」
でも、その声は、寂しげだった。