第2章 黒と白の似たもの同士
「女の子の顔に傷があっちゃいけないからね、僕特製の傷薬を塗っておいたんだ。少ししたら綺麗に治るから安心して」
鼻血を出しながらキラキラ笑顔でそう言う白澤に、ども、と一言だけ礼を述べると、布団を出ようとして少しだけふらついた。
すかさず支えに入るカノンを黙って見つめる2人。
白澤は鼻血を拭きながらなにか考えている様子だ。
そうです、と手をポンと鳴らして鬼灯が一旦ドアから出ると、戻ってきたその手には金棒の代わりに粥がのった小さめのお盆があった。
「お腹がすいていると、倒れる間際に言っていましたから」
粥なのは一応病人だからだろう。
元々よく食べる方の叶弥が、ここ数年で目に見えて食事の量が減っている事を知っていたカノンは、その粥ですらきちんと食べるのか気が気ではなかった。しかし、その心配も気疎に終わる。
適度なあたたかさとダシが効いた粥。1粒のせられた梅干しは、丁寧に種抜きがしてあった。
叶弥は布団に座ったままそれにがっつくように、あっという間に平らげてしまう。
「美味しかった、ありがとう、ございます」
ぎこちなくお礼を言う叶弥に、舌に合っていたようで良かったです、と湯のみを差し出た。
「生姜湯です。胃に負担にならないように薄めにして、はちみつを混ぜておきました。…叶弥さん、手荒な真似をしてしまってすみません」
申し訳無さそうにそう言う鬼灯に、叶弥とカノンばかりか、白澤まで目を見張ってしまっていた。
あの鬼神が、謝っている…!
バツが悪かったのか、白澤の頬をギューっと引っ張って、2人はそそくさと部屋を後にしたのだった。
「…変なの。でも、美味しかった」
「そう。君がいいならそれでいいけど」
先程の白澤の態度が気になってしょうがない。
世界が違うとはいえ、彼は神獣であり、カノンは神の端くれだ。何か感ずるものがあったのかも知れない。
かくいう彼自身も何かを感じとって落ち着けずにいた。
そんなことはつゆ知らず、手持ち無沙汰になって部屋を歩き回ろうとした叶弥を制して、きちんと寝るように釘を刺す。
「もうひと眠りしたらいいよ。回復したら忙しくなりそうだし」
ハァとため息をついて、布団をかけ直してやるのであった。