第2章 黒と白の似たもの同士
「あ…」
間に入ったそれを見て白澤の顔がザァと青ざめる。
あの涼し気な表情とは打って変わり、その黒い物体─金棒─の先を目で追いながらますます顔面蒼白になっていった。
「…私は病人を見ろ、と言ったんです。そのあなたが扉の向こうにまで響き渡る声で吠えてるなんて、一体どういう事なんでしょうかね?」
特徴的な低い声の主を凝視してぎこちない反応しか出来ていない白澤を横目に、カノンはそっと距離をとった。
(ホントに仲が悪いんだね、彼の顔の歪みっぷりがハンパないよ)
鬼灯と白澤。鬼神と神獣。
服の色もさることながら、白と黒の真逆の存在のはずなのだが。
2人はまず見た目がそっくりなのだ。
キツめの目に通った鼻筋、男の癖に肌が綺麗で白い上に背丈も似たりよったりなのだ。
美醜の判別くらいカノンにだってできるわけだが、いかんせん彼らはその性質に問題があるようだった。
(女たらしとドSじゃなあ…)
白澤と言い合っていた自分は棚に上げ素知らぬ顔で様子を伺う。
と、ブンッと金棒の先端がカノンに向けられて、あなたも同罪ですよ、と釘を刺されたのだった。
妙な空気の中、事の発端の人物が身じろぐ。
「う、…ん?あれ」
「叶弥起きたの?大丈夫?気分はどう?」
駆け寄ったカノンに矢継ぎ早に質問をされて、叶弥は上半身をムクリと起こしながら頭を掻く。
まだ下がりきらない熱と疲労のせいか、目の焦点が定まっていない。
「んー、大丈夫かなぁ、んー…やっぱり夢じゃないのかぁ」
それは、『鬼灯の冷徹』の世界に来たことが、という意味だろう。そのセリフから彼女の記憶はそのままなのだと再度認識する。
「やあ、君は叶弥ちゃんって言うんだね。僕は白澤、君を助けに来たんだよ」
「どの口が言いますかこの淫獣。…ああ、この白豚はお構いなく。あなたが倒れてしまったので、不本意でしたが様子を見させるために呼びました」
金棒を白澤の頬にグリグリと押し付けながら飄々と話す。隣で痛みを訴える声を丸無視しながら、なおもその鈍器を押し付ける手は緩められる様子はなかった。
(…デジャヴ、あ、私の左頬…)
自分にも押し付けられて負傷したであろう頬を軽く撫でると、少しペタペタとするものが手に付いた。