第7章 へべれけとタラシと朴念仁
鼻をクンと鳴らして匂いを辿ると、そこにいたのは長身で色素の薄い男だった。
象牙色の様な日に照らされて輝くような髪、合間に覗く金の瞳が優しげにやや垂れている。つるんとした人形のような肌が郭の女のようで、檎は二、三度瞼を擦りながら彼を見ていた。
「こりゃあたまげた。この世のモンじゃ無いみたいなお方じゃのう」
「そ。成り行きでうちの店に居候させてる奴なんだよ、不本意だけどね」
「…」
檎のセリフにも白澤のセリフにも特段反応を示さない彼は、檎の後ろに意識を持っていかれているようだった。
檎ははて?と首をかしげてから振り返る。
「…そこに、いるんだね」
ふわりと微笑む彼に周りにいた者達が一斉に頬を紅潮させる。檎と言えばそのセリフと背後の個室で待つ連れを思い浮かべ、納得したように手をポンと打った。
(ははぁ、こんお人が叶弥の連れかィ。エライ組み合わせもあったもんじゃのう)
店内の男女問わずに彼に見惚れ、情けない顔を晒す面々に苦笑が漏れる。なるほど、叶弥と連れ立って歩けば色々な意味で目立ってしまうであろう。檎ですら感じ得る神気に、彼が只者ではないことが伺える。2人を引き離したのは得策と言うべきか、しかし叶弥の気持ちを思えばやはり可哀想だとも思うのだった。
檎は彼の袖をちょいちょいと引いて耳打ちをすると、目が合った鬼灯と白澤にいつもと変わらない笑顔を向けた。
「何を話してたの?」
「んー?いや、スカウトしようとして断られただけじゃ。残念残念」
白澤の問に軽くそう答えて疑いの目を逸らすことに成功すると、檎は個室へと引き返して行ったのだった。