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クチナシ【鬼灯の冷徹】※不定期更新

第7章 へべれけとタラシと朴念仁


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「ここだよ、ここ!ワシの最近のお気に入りの店!」
「分かりましたから。子どもじゃあるまいし騒がないでください」

興奮気味に店先で大きな提灯をツンツンと指さす閻魔大王に、鬼灯は少し呆れ顔だ。
この上司は度々こうやって飲みに行くらしい、幾度か連れていかれた事がある店とは違い、やや小奇麗な作りなのだった。
店内に足を踏み入れると、しっとりと落ち着いた雰囲気が全身を包み込む。
欄干には見事な彫りが入り、下がる照明がやや暖色で室内をゆるく照らし出す。
丸窓はステンドグラスのようになっており、花が描かれていてそれもまた美しい。
調度品も黒を基調とした、とても落ち着きのある物が揃えられていた。

「大王にしてはいい趣味をしていますね」
「なんか引っかかる言い方だけど…いいよねぇ、この雰囲気が気に入っちゃってさ、最近はここばかり通ってるよ」
「……あれは、ボトルキープですか?」
「ん?あれ?そうそうワシの。何回も来ちゃってるからねぇ、ああして置いてもらってるんだよ」

自慢気に嬉嬉として語る閻魔大王を適度にあしらいながら入口に佇んでいると、間もなく店員が元気よくいらっしゃいませ!と席を案内してきた。

「よし、先ずは1杯目…鬼灯君はなににす「大吟醸」……ああ、そうだったね…」

のっけからさらりと大吟醸を指定する鬼灯に、閻魔大王は苦笑いをした。そうだ、この鬼神は自他共に認める酒豪。飲めども飲めども全く酔わない、酒の申し子なのだ。

「そう言えばあのコ達、来てないねぇ」
「ああ、あとから来るそうですよ。なんでも茄子さんがミスをしていたようで。唐瓜さんは茄子さん一人だと心もとないからと、直しの手伝いだそうです」
「あの二人、いっつもそうじゃない?唐瓜くんが大体尻拭いを手伝っているような」
「まるで私と大王の関係のようですね。唐瓜さんの苦労が想像に難くない」
「………」

苦虫をかみ潰したような閻魔大王を横目に、升に注いだ大吟醸をグイと一気に飲み干した鬼灯は、畳み掛けるように普段の仕事に関する文句の一つでも言ってやろうと、身を捩って口を開きかけた。
そこへやや冷えた空気が頬に当たると、それは店の戸が開いたせいだろうと気づく。
折角の酒をわざわざ不味くする必要もないと思い、正面へ向き直ろうとした。


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