第7章 へべれけとタラシと朴念仁
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「あっ」
「えっ」
「げっ」
「…」
「うわぁ…」
「あっ、君たち久しぶりだねぇ!」
鬼灯、閻魔大王。白澤、桃太郎、カノン。
顔を合わせた彼らは一瞬にして凍りつく。
「あ、あぁれ?デジャヴ?」
「…最悪の組み合わせだ…」
申し合わせたかのように一堂に会したのはいいが、なんせ揃って互いを敵視し合う者が混じっているのだから、その空気の悪さは尋常ではなかった。
殊に白澤と鬼灯の間の冷えた空気は、周囲の者ですら肝を冷やす程。
「なんでお前がいるんだよ!なにこれ最悪…!」
「…本当は仲がいいんじゃないの?君たち」
「止めろありえない」
「あの、お客様…」
見かねて店員が間に入ると、鬼灯は白澤にメンチを切り酒をなみなみと注いで、一瞬で腹に収めだのだった。
ただ、そんなことをしても収まらないのは、腹の虫。
苛立たしげに貧乏ゆすりをしながら口元を歪める鬼灯に、閻魔大王はまあまあと嗜める。
犬猿の仲である鬼灯と白澤だが、何故か彼らは待ち合わせでもしていたのかと言うくらいに良く出くわすのだ。それ自体は以前よりなのだが、叶弥が現れてからその頻度が増したように思う。
鬼灯は出会う度に金棒を振り回しては白澤を痛めつけているのだが、セリフの端々から彼を認めている風な言い回しも多い為、完全に嫌悪しているというわけではなさそうなのではあるのだが。
イライラを漂わせる鬼灯の横を、白澤がそろりと通り抜ける。と、お約束のように立てかけられていた金棒で足を払うと派手な音を店中に響かせながら、白澤は盛大にすっ転んだのだった。
「ったー、何するんだこの朴念仁!」
「いえ、そこに虫がいたもので」
「僕が虫か!くっそー、折角来たのに気分が台無しだよ!」
「なんじゃなんじゃ、忙しいのう…っと」
奥からカラコロと下駄を鳴らしてきたのは檎だ。
後ろを気にしつつ鬼灯達に向き合うと、揃った面子を見てため息をついた。
「まぁた旦那ですかィ。今度は何をやらかしたんで?」
「この状況を見て僕を悪者にしないでくれる?寧ろ被害者なんだけど」
すみません、と相槌を打った桃太郎に同情の視線を送り、檎はひとしきり辺りを見回して踵を返そうとした。したのだが。
(こりゃぁ、金木犀の香り…?)
遠くからでも分かるくらいの、自己主張の強い香りが檎の鼻をくすぐる。