第7章 へべれけとタラシと朴念仁
(あんまり酒得意じゃないんだよなぁ…閻魔大王はともかく、鬼灯様の酒のペースに飲まれたら生きて帰れない)
地獄きっての蟒蛇(うわばみ)とまで言われる鬼灯の飲酒のペースは半端ない。毎度水のように胃袋に流し込まれる大量のアルコールは清酒なのだが、これがまた恐ろしく彼の顔色は全く変わらないのだ。
鬼灯はむやみやたらに飲酒を勧めたりはしないが、隣にそういうのがいれば嫌でも釣られてしまうというもの。
ここはペースを掻き乱す天才の茄子を連れてくるべきだろう。一言断って茄子を誘いに向かった唐瓜であった。
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「叶弥、酒は飲めるんか?」
「ん、多少はいけるけど」
片付けに追われる店内で、檎にそう聞かれた叶弥は遠慮がちにそう答えた。
ソコソコいけるクチではあるのだが、これがその日の体調や気分、はたまたメンツによって酔の回りが変わることを自覚しているので、あまり飲みたいとは思わないのだ。
檎相手なら平気だろうけど、とは思いつつ、なんだか乗り気になれない叶弥の返事は歯切れが悪い。
「一杯引っ掛けて行かんか?ワシが奢っちゃるで」
「…奢り?檎、また賭け事やってきたな」
「ありゃ、バレちまったか」
かかか、と軽快な笑いを飛ばす檎に毒気を抜かれ、半ば呆れながらも、奢りならいいか、と承諾した。
檎は時たまこうやって賭け事をしているらしく、しかし大半は負けて帰って来るのだ。
チンチロリンと言って、三つのサイコロを振って勝ち負けを決めるという遊びだ。
一通り説明されたものの、賭け事に全く興味が無い叶弥の頭には全く入ってこなかった。
とりあえず第一印象は、なんかヤクザの賭け事みたいだと、そんなアバウトなものだった。
「アラシとかジゴロとか?よくわからないけど、檎が勝つなんて珍しいね」
「まーそんなとこ。大盤振る舞いやで、叶弥も頑張っとるし、いっちょ景気づけに!って所やな」
そう言いながら肩を組まれても悪い気はしない。こうして時々自分を気遣う檎に懐柔されてしまった感覚だが、最近ではそれに居心地の良さも感じている。
絆されたと言うべきか。
世界を渡る必要がないのなら、ここでこうして過ごすのも悪くない。
それなりに穏やかな檎との関係がこのまま続けばいいと、そう思うのだった。