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クチナシ【鬼灯の冷徹】※不定期更新

第7章 へべれけとタラシと朴念仁


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「ねぇねぇ鬼灯くん、これが終わったら飲みに行こうよ〜」
「猫なで声が気持ち悪いですよ大王」

相変わらず主従関係が逆転しているかのような二人のやり取りに、書簡を片付けていた唐瓜はまたかと見つめる。
以前、太っただのダイエットだので散々大騒ぎした割にはコレだ。閻魔大王の中では酒は太るとイコールにならないらしい。
案の定鬼灯にそれを指摘され、苦い顔をしながら尚も誘い続ける。

「チッ、仕方ありませんね。ここひと月位ご無沙汰でしたから、まあたまにはいいでしょう」
「…いいって顔じゃないよねそれ。というか今チッて言ってなかった?」

広げていた書簡の端がクシャと歪んだのを見て、鬼灯があまり乗り気でないことがわかる。
それでも閻魔大王の誘いに乗るのは、彼が閻魔大王をきちんと認めているからなのだった。

現世で描かれる閻魔大王は、ここにいる閻魔大王とは全く違う。
赤い顔を般若のように歪ませ、見たものを震え上がらせるようなその風貌。
それはひとえに、現世の人間たちを「悪い行いをすれば、この閻魔大王に裁かれますよ」と知らしめる為のものなのだろうが、当の本人と言えば実にのんびりとした人物なのだった。
普段から鬼灯が閻魔大王を(脅しながら)叱咤するように、非常にマイペースである。しかし、情に厚く部下を気遣う彼を慕う者は多い。
鬼灯自身も閻魔大王のそういう所に救われて、今こうしてここにいられるのだ。
つまり、多大な恩を感じている彼は、閻魔大王を無視はできない。

「頼みますから酔い潰れないでくださいよ?以前から言っていますが、馬鹿デカイ大王を介抱する気はありませんので。もし潰れたらその辺に転がす」

やりかねない。鬼灯ならやりかねない。
慈悲はない!と普段判決を下す閻魔大王が、優秀な部下である鬼灯に同じように言われた感じがして、冷や汗をかいた。
亡者の頭蓋骨で装飾された閻魔大王専用の机に乗った書類も、あと少しで終わりそうだ。閻魔大王は気を良くして露骨にルンルンなのを見て、鬼灯は一体誰が頑張ったおかげなんですかね、と聞こえる声でわざと独り言を呟いたのだった。

「そうだ、唐瓜くんも飲みに行こうよー、もう上がりでしょ?」
「えっ、俺は…」
「社会人たるもの、上司の酒が飲めないとは言いませんよね」
「もも、もちろん!もちろん行かせていただきます!」
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