第6章 馴れ合いと暗躍する影
(この喚ばれるというのも、仕組まれている気がしてならない)
叶弥に打ち明けられない秘密を抱える彼も、異世界を渡る能力を有している彼女が何故、どうして喚ばれるのか分からないのだ。
それを体よく使って、天上の者の目をかいくぐって来たのだが、やはり分からないまま。
「……やめた、不毛だし」
諦めが早いというかこれ以上の思案は無駄だと思い、無意識に寄せていた眉間のシワを指でほぐした。
ここ最近の力の不安定さは、この世界のせいというわけでもない。少しずつ制御が効かなくなる力に歯痒さを感じながらも、決定的な力の衰退があるわけでもなかったので無視していたのだ。
しかしここに来て、叶弥の記憶の蓋を緩ませてしまう事になってしまった。唯一の救いは、一番底に沈めた記憶だけはどうやら無事らしいと言うこと。幾重もの呪いのようにかけた鍵が、蓋を固定している状態が功を奏したと言ってもいい。
更に気づいたことがある。
ここのうさぎが以前怪我をした際に使った力だが、あれはそれなりに消耗してしまうものだ。
基本的に叶弥以外にその力を使うことがなかったのだが、自分の力を確認するためにあえて傷を“治し”てみたのだ。
(特段変なことにはならなかったんだけどな)
傷を負った部分だけ時間を巻き戻す処置は、緻密かつカノンの溜め込んだマナを消費してしまう。
普段であれば、常に叶弥へと分け与えているマナと合わせるとかなり疲弊してしまうのだが、あの時はそれを全く感じることはなかった。
それどころか、ここに来て彼女へと分け与えている力が彼女の中で飽和しているらしく、ほとんど与えることがないと言ってもいい。
つまり、叶弥に対する力の働きかけだけが上手くいっていないのだ。
カノンにしては珍しくイライラしているらしい。
険しい表情になってしまったことを自覚して、いけないいけない、とわざとらしく笑って見せた。
周りにいたうさぎたちが不安げに一斉に彼を見ると、ゴメンね?と言いながら抱えていたうさぎをそっと下ろした。
久方ぶりに会えるかもしれない叶弥への土産話に、ここのうさぎの話をしてやるか、あるいは白澤の愚行を暴露して笑い話を披露するか。
胸中に宿る不安を、彼女に会うことで中和したい。
いつになく弱気な気持ちに、そっと蓋をした。