第6章 馴れ合いと暗躍する影
「久しぶりに会いたくない?心配なんでしょ、キミの半身なんだし」
気持ちが悪い優しさだが、叶弥が心配なのは事実だ。安々と乗っかるのも腹立たしいが、フォローしてくれた桃太郎のメンツもあるわけだし仕方が無いか、と肩を竦めた。
「わかった。桃太郎くんもいるし、ご相伴にあずかることにするよ」
じゃ、決まりだね!とスキップしながら店へと戻る白澤を見送ると、抱えたままのうさぎを撫でて空を見上げた。
食えない男だ。いくらふざけていようと、やはり彼は神獣なのだと改めて思う。
自身が神格化されて随分経つが、白澤にしてみれば赤子同然なのだろう。
既に色々察していて口を出さないのかもしれない。
女相手にならクルクルと舌がまわる癖に、こういう所だけは慎重に事態を見極めながら言葉を選んでいるようだった。
(彼らからすれば、僕や叶弥は本来要らない歯車だからね)
かつて訪れた世界にいた“獬豸”(カイチ)を思い出す。
彼も瑞獣であり正義や公正を表す聖獣なのだが、白澤とは比べ物にならないくらい生真面目な性格をしていた。融通が利かない故に、叶弥を怒らせてしまう場面も沢山あったが、それでも叶弥によく尽くしてくれた神獣だった。
『私はどこにでもいます。叶弥様、貴方の為なら何時でも馳せ参じますよ』
同じく要らない歯車である叶弥達をいち早く受け入れてくれたのが、他でもない獬豸だった。
あの言葉を叶弥が覚えているのなら、世界を隔てようとも彼は来てくれるんだろうなとふと思う。
「ま、叶弥は元々忘れっぽいし。僕の力が上手く働いてないみたいで、記憶に霞が掛かってるようだからほぼ不可能だろうけど」
独り言を噤むと、うさぎたちに人差し指を差し出して、内緒だよ、と呟いた。
事実、記憶がそっくりそのまま残っているはずの(一番根深い記憶の蓋だけは、カノンでも簡単には開けられない)叶弥は、いつもなら処置が完了するまでは昏睡状態になってしまう筈だった。
普通の人間にない能力を有したとしても、結局は生身の人間。急激な記憶の奔流に、脳や心が耐えられる筈が無いのだ。
それらを丁寧に並べて、綺麗に蓋をする。
その作業を次元の狭間で行い、次に喚ばれた世界へと叶弥を導くのがカノンの役目なのだ。