第6章 馴れ合いと暗躍する影
ごめん、と素直に謝られて気を良くした桃太郎は、まあたまにはいいじゃないんですかといつになく乗り気だ。
自分たちのペースで仕事ができるとは言え、自営業で漢方を扱う店なのだ。
完全にフリーというわけにも行かず、特にカノンはここに来てから一度も桃源郷から出たことがないのだ。
桃太郎はそれを気にかけて、白澤の気まぐれの提案に乗ったのだった。
「わかったよ、桃太郎くんがそう言うなら」
「それに、地獄には叶弥さんがいるんでしたよね?もしかすると会えなくもないかもですよ?」
「ああ、うん」
少し歯切れの悪いカノンに疑問も浮かんだが、ここは兎に角店を先に閉めましょう!と桃太郎は店へと片付けに行ったのだった。
残されたうさぎ数匹に囲まれ、カノンと白澤は黙ってお互いを見合う。
柔らかく風が互いの髪をなびかせると、足元の花が擦れて匂いが立ち上った。
それを打ち消すくらいの香りを漂わせるカノンが口火を切る。
「…どういうつもり?最近やけに大人しい気がしてたんだけど」
「いや、キミの大事な叶弥ちゃんに会わせてあげようかなって」
その言葉に眉根を寄せると、余裕綽々とばかりに白澤は笑った。
「…言ってなかったっけ?叶弥ちゃん、あの鬼神から逃げ出して、今は衆合地獄で働いてるんだよ。ああ、妓楼とかじゃないから、そこは安心して?」
「……」
右耳に付けたピアスを弄りながら、済ました顔で腕を組んで桃の木に背をあずける。
動けないから仕方が無いとはいえ、先を越されてカノンは不愉快そのものだ。いつだって彼女を見守って傍にいたのは、自分なのに。
そんなカノンなど素知らぬフリで、白澤は淡々と続けた。
「狐喫茶ヤカンカンって言ってね。そこを取り仕切ってる檎って野干が、彼女を見初めて招き入れたのさ。野干は化けるのが得意だからね、叶弥ちゃんの変装もバッチリ。閻魔殿から逃げ出した彼女を追ってきた鬼灯の奴も、全然気づかなかったみたいだよ?」
なるほど、叶弥は鬼灯の事はよく思っていなかった様だし、おそらく自分がいる桃源郷に来ようとしていたのだろう。
しかし浅い知識に加えて、彼女は酷い方向音痴だ。ふらふらと迷い込んだところをその野干に見咎められたに違いない。