第6章 馴れ合いと暗躍する影
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「桃タローくん、あれ取ってアレ」
「白澤様、アレじゃわかりませんよ」
「んんん、アレだよ、アレ」
「「遂に痴呆が来たか」」
「声揃えんなよお前ら」
今日も桃源郷は清清しい陽気だ。
今日“も”というのは語弊があるかもしれない。桃源郷は常に過ごしやすい気候が保たれており、屋外で寝起きができるくらいには平和なのだ。
中国の神獣である白澤は、吉兆の瑞獣とされている。
人語を解し万物に精通するという彼は、為政者が世に出ると姿を現す、という麒麟や鳳凰のように名高い存在のはずなのだが。常に人型をとるこの白澤には、全くありがたみを感じる機会が無いのだった。
「最近二人とも結託しすぎじゃないの?なーんかボクだけ仲間ハズレ。つまんなーい」
「拗ねるな!女子かおのれは!!」
益々ツッコミにに磨きがかかるばかりの桃太郎と言えば、最早お母さんのような存在だ。
いつか桃太郎印の薬を作ることを夢見る彼は、白澤を師として学んでいるはずなのだが、さっきのような調子が日常茶飯事なために、はたから見ると全くもってそんな雰囲気は砂粒も微塵も感じることが出来ない。
(カタブツがみたら発狂しそうな絵ヅラだな)
はは、と乾いた笑いを漏らすカノンは、腕に抱えた白いうさぎを撫でていた。
叶弥から引き離されて随分経つ。が、彼は特に慌てる様子もない。
白澤は最初は訝しんでいたのだが、ここ最近においては以前の様に露骨には煙たがる様子もなく、表向きは和やかに過ごしているのだった。
「はぁーあ、気乗りしないなぁ。よし、遊びに行こうか皆で!」
「白澤様、店は?」
「たまにはいいじゃない、皆で飲みにでも行こうよ。あ、君もだよカノン」
たまにはとは。
時間が空けば地獄、気が向いたら地獄。大方衆合地獄にでも行っているのだろう。その間に留守を任されることが大半な桃太郎とカノンは、白澤の発言に揃って首を傾げたのだった。
「え、いや僕はいいや」
「…なに、上司の酒が飲めないの?というか、下戸だったりする?」
「アルコールなんて水みたいなものでしょ」
「ふふっ、言うねぇ」
少し不穏な空気になった中、桃太郎は咳払いしてふたりの間に入る。
「白澤様、直ぐそうやって神経を逆撫でするような事を言わないでくださいよ。カノンさんも乗らない!」