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クチナシ【鬼灯の冷徹】※不定期更新

第6章 馴れ合いと暗躍する影


じり…と間合いを詰める鬼灯を涼やかに一瞥して、男は地面を蹴って空中へふわりと浮かんだ。

「やだなあもう、そんなにがっつかないでよ。今日は挨拶だけって言ったでしょ?…次に会うのは、現実でだよ。生身で会うのが楽しみだね、鬼灯」
「私は全く面白くありません」

鬼灯が金棒を下げたのを見届けると、男は笑って肩をすくめた。

「まだ名乗ってなかったね。ぼくは叶(かなう)。かつて叶弥と同じ魂魄を共有していた者。今はこうして“魂”と“魄”に分かれてしまったけど…ぼくは必ず叶弥を取り戻す」

今まで無邪気な笑いをたたえていたその顔を真顔にしてそう言い放つ。
その顔は叶弥そのもので、彼女より短い白髪をなびかせながら少しずつその姿が薄らいでいく。
鬼灯は瞬きもせずじっと見つめたままだが、その瞳の警戒心が緩むことは無い。

叶。
叶弥と同じ顔をした存在は、彼女と似ても似つかず禍々しいモノだ。
浮いたまま消えかける手を鬼灯の頬へと伸ばす。
触れてきた指先は、酷く冷たかった。

「…あんまり叶弥をイジメないでね、ああ見えてあの娘は繊細だから」
「知っています」

言い終わるか終わらない内に、叶は空気に溶けるように消えていった。
鬼灯は何も無い空間をただずっと見つめて立ち続けたのだった。









不意に、意識が引き戻される感覚に目を開けた。
見じろいで天井を見上げると、そこは先程までいた場所ではないと確認して、安堵の溜め息を吐いた。
時計を確認すると、寝付いてから小一時間も経ってはいない。
疲れてややクマができた目を擦ると、チッと舌打ちをする。

(全く…面倒なことになりそうだ)

布団をかぶり直すが頭は完全に覚醒してしまったらしい。何度か寝返りを打つが寝られないと悟ると、布団から出て身支度を整えて、自室の扉を開いた。

しん…と静まり返った閻魔殿。
渡り廊下に鬼灯の足音だけが響く。
手にした金棒を片手でさすると、つい今しがた見た夢を頭に巡らせて、やはり不機嫌そうに何度か目の舌打ちをしたのだった。








時を同じくして、酒で痛む頭を抱える神獣がひとり。
鬼灯と同じ夢を見た白澤は、これまた同じように舌打ちをして布団につっ伏するのだった。


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