第6章 馴れ合いと暗躍する影
縋るようにしがみついてきたそれを、顔色を変えずに見下ろす。
冷ややかな鬼灯の眼差しに躊躇いがあるのを、彼は見逃さなかった。
「ね、混乱する?困惑する?戸惑っちゃう?…普通に生きて死ねなかった君だもの。ぼくらの真実を知っても、きみは行いを責められないよねぇ」
鬼灯の眉根が寄せられる。コレは、一体何を言わんとしているのか。鬼灯の中の懸念がそれを問うことを憚られた。
わざわざ触れられたくもない過去の自分。
気に止めないフリはするが、やはり自分の根幹を弄られ揶揄されるのは気持ちがいいわけがない。
彼は、そこを突こうとしているのだ。その言い方でそれを察した鬼灯は何故知っているのか、という疑問を押し込めて縋られた手を叩き落とした。
「あなたが叶弥さんに似ているとか、そんなことはどうでもいいです。私の夢にいることが解せない、さっさと消えてください」
「あは、つれないね。でもそういう所嫌いじゃないよ」
左手を自分の前に翳した彼は、一瞬で砕けた顔を戻して叶弥と同じ顔で嫋やかに笑う。
一歩一歩後ろに下がりながら手を振っていた。
「今日は挨拶だけ。そろそろぼくも具現化できそうだし、叶弥を取り返しに行きたいからさ、この世界でカノンの次に驚異になりそうな君への宣戦布告だよ。…叶弥の心を誑かさないでね、散々今までの世界でそんな叶弥を見せられてきたんだ。頭がいい君なら、天秤にかけるまでもなく譲ってくれるって信じてるけど」
譲る?何を言っているのか。というより取るだの取られただの全く身に覚えがない、ほぼ言い掛かりのような脅しに、鬼灯のこめかみに青筋が立つ。
この男に対しての嫌悪もだが、あからさまに売られた喧嘩を放棄するほど鬼灯は優しくもないし熟れてもいなかった。
血糊がついた金棒を突きつけると、不敵に言い放つ。
「いいでしょう、売られたその喧嘩買いますよ。これもタダの夢ではないようですし…私に喧嘩を売ったこと、後悔させて差し上げます」
片側の口元がくっと上がり、無表情だったその顔に好戦的な色が宿る。
男は一瞬あっけに取られたかと思うと、腹を抱えて呵呵大笑した。
「いいねぇ、叶弥の周りには変なヤツばっかりだ…いいよ、遊んであげる。果たして彼女が君を選ぶかは甚だ疑問だけど?」
「御託はいいです、かかってきなさい」