第6章 馴れ合いと暗躍する影
「…またここ、ですか」
サワサワとやわらかい風が吹く。
鬼灯が立っているのは、緑の大草原だった。
普段自分がいる赤黒い空間とは似ても似つかず、幾度目かの来訪となるこの場所にイラついたのか、チッと舌打ちをした。
「また来たんだ、君も懲りないね」
「好きできているわけじゃありません、と言うか、誰ですかあなた」
声がした方を振り替えると、鬼灯は暫し硬直した。
「叶弥、さん?」
ふふ、と笑われたが、よく見ると体躯が彼女とは全く異なっていることに気づく。
鬼灯より低めの背丈で、やや見上げられた瞳は鮮やかな赤をしている。髪は青が透けた白髪をしており、声は男のものだ。
しかし、叶弥に瓜二つの顔をしている。
「ソックリだよね、かわいいでしょ?ぼく」
「…」
「やだなぁ、今のは笑うとこだよ、面白くないなぁ」
頬をふくらませた彼は不服そうにそう言うと、笑って言った。
「…ね、叶弥の事取っちゃダメだからね?アレはぼくのだから。今はカノンに取って代わられてるけど、元々あの場所はぼくのだし。鬼灯だっけ、君はいつも通りにしてればいいんだよ」
笑っているのは、その口元だけだ。
赤い瞳は見開かれており、狂気さえ感じる。
叶弥と同じ顔なのに、似ても似つかない歪んだその笑い方に、鬼灯の本能が刺激される。
─コイツは、“良くない”モノだと。
鬼灯の手元にいつの間にか握られていた愛用の金棒を、躊躇なく真顔のまま彼へと振り下ろした。
白い髪は赤く染まり、辺りに脳髄が飛び散る。金棒に血と頭髪が付いたのを見ると、その場で振り払った。緑の大草原に似合わない赤い色が、その一角を染める。
砕けた頭をあげると、半分になった彼の顔は先程までの狂気じみた笑顔のままだった。
「…!」
「ふ、ふふっ、ねぇ、夢だけどさ、ぼくは地味に痛いんだよね。ちょっとは手加減して欲しいなぁ」
「何なんですかあなたは。この草原には何回か来ていますが、あなたのような異質な気味の悪い存在なんて、私の夢にいていいはずがありません。ましてや見知った者でもないですし、不愉快です」
その言葉に、彼は笑顔を消した。
変わりに、一瞬で憎悪に塗れた色へと変わる。
「…オマエたちがこうさせたんだよ、オマエたち人間神仏全部が!ぼくを、ぼくらをこうさせた!」
ゆらりと一歩、鬼灯へと向かう。