第6章 馴れ合いと暗躍する影
「あれから結局、叶弥さんの行方は知れず、ですね」
「鬼灯くんをここまで手こずらせるなんて、彼女実はすごい娘だったんじゃないの?」
「……なんだか腹が立つ物言いですが、認めざるを得ないかも知れませんね」
あの鬼灯くんが敗北を認めた、明日は閻魔殿に雪が降るかも知れない!と横で震える閻魔大王を尻目に、当の本人はいつもの仏頂面で淡々と仕事をこなしていく。
途中、閻魔大王へ金棒を投げてよこした(というより顔面を狙って)鬼灯に、いつもの鬼灯だと周囲の獄卒達は安心したような溜息をついた。
衆合地獄から帰った鬼灯は、閻魔大王へ叶弥を取り逃がしたと報告し謝罪した後、何故か手配していた通達を引っ込めてしまった。
過去に生者が地獄へ迷い込んだ事例があったために、原因となる井戸を封鎖して以降、鬼灯は原因になりそうな怪しい場所は片っ端から潰して回ってきた。
業務に支障が出る事を気にすることはともかくとして、万が一地獄でのトラブルに巻き込まれて、生者が死んだりでもしたらそれこそ末代の恥どころの騒ぎではなくなるからだ。
それを知っている閻魔大王は、特に今回の件の鬼灯の対応に疑問を感じているようで、なにか聞きたそうにする度に鬼灯に体よくあしらわれている状態。
先の発言も挑発を意識した言い方だった分、素直に答えてくれるとは思っていないのだが…
「ねぇ、鬼灯くん。叶弥ちゃんに何かあるから、指名手配を取り下げちゃったの?」
「…多忙な上司の手をこれしきのことで煩わせるわけにはいきません。大王はどうぞ、通常業務へお戻りください」
「鬼灯くん…」
にべもない。
閻魔大王は部下である鬼灯の意図が全く読めずに困ったような顔をするだけだった。
鬼灯は手にした巻物を睨んで、手元の仕事を片付けてゆく。
長いこと彼を見てきているが、自他共に認める仕事人間(鬼)であり、ちょっと変わった趣味もあり、ドS(本人は認めないが)だが何だかんだで周りを大切にしている。今回だってきっと放っておくつもりはないんだろう、現に合間を見ては叶弥の行方探しに時間を割いているようだった。
見つからなかったと報告して数日、徹夜明けで疲れた顔をした鬼灯は、フラフラと自室へ入っていった。
風呂や食事もそっちのけで、吸い込まれるようにベッドへと潜り込んでゆく。