第5章 助く者は
「まだキミを完全に分かった訳じゃないし、やっぱり異質な存在だからね、警戒を解くわけにはいかないんだけど」
「……」
「分からないものを分からないまま排除するのは、ボクの信条に反するし、何よりキミは女の子だしね。世の中の女の子はすべからく男に守られるべきだと思うよ」
背の高い細身のこの男。
信用してはいないのだが、妙に確信めいた物言いに口出しできずにいた。
抱きしめられて伝わる暖かさと心臓の音に、思わず目を閉じる。
白澤は漢方医だったか。独特の薬の匂いがするが、それを嫌だとは思わなかった。
「ノー、と言ったら?」
「ノーとは言わないんじゃないかな、叶弥ちゃんなら」
頭上から自信満々に答える白澤に笑いが漏れる。
なんで笑うのさ、なんて言われて、抗議するように白澤の胸にグリグリと頭を押し付けてやった。
それは恋人同士がするような甘いものではなく、叶弥にすれば動物同士がじゃれあい寄り添っているような感覚。
しかし檎といい白澤といい、人間ではないものにやたら縁があるのか知らないが、確実に叶弥の頑なな心を溶かしているようだった。
記憶がないならいざ知らず、そうでない時の叶弥はカノンしか頼れないので、必然的に他人を拒絶するしかなくなっていた。
元いた世界の自分を思い起こし、その変化に若干戸惑いもある。
「ふふっ、今度は猫みたいだね」
甘やかすように背を撫ぜられて、嫌な気がしないのは神獣だからか。はたと気付き、白澤の肩を押して離れた。
「答えを待つなら、めいいっぱい焦らしてあげるよ。私は誰のモノでもないし、これからもそうはならない。せいぜい私をその気にさせてみなよ、出来るならね」
「…面白い、その賭け乗った!」
白澤の様子を見るに、カノンはとりあえずは大丈夫らしい。ここ最近力の制御が上手く行かないとボヤいていたのを知っているから心配したのだが、叶弥が気にするほどのことでも無さそうだ。
当面は檎が匿って職を与えてくれるようだし、急いて事態をややこしくはしたくなかった。
仮に鬼灯からなにか聞かれたとしても、この神獣ならのらりくらりと躱して上手いこと誤魔化すだろう。
「退屈だったからね、たまにはこういうのも悪くない」
その声に顔を上げると、白澤は薬の匂いを残して忽然と姿を消していたのだった。