第1章 ああ、めんどくさい
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どれくらい時間が経ったのか。
足がつかない高さで柱に縛られている状態だが、縄がくい込んで痛いし、中々に体力を消耗する。
「ねぇ、そろそろ限界なんですけど」
「そうですか、吐く気になりましたか?」
「ならないし吐くものもございません」
おそらく今の私の顔は酷いもんだろう。妙な疲労感で想像以上に精神的ダメージは大きい。
なんせ、今いる場所は閻魔大王と鬼灯が仕事をしている場所で、わらわらと亡者が裁きを受けに来る所なのだ。
もちろんその亡者どもにチラチラと見られるのもストレスだが、時々反抗的な亡者にあの金棒で容赦ない一撃を食らわせる所を見ると、こう、すごく疲れるのだ。
「カノン、疲れた腹減った眠い、無理、死ぬ」
「うーん…」
何故かイマイチカノンの反応が薄い。それも不満なのだが。
この状況で私の脳がオーバーヒートしたのか、なんだかすごく気分が悪くて頭痛までする。ボーっとして、言うなれば二日酔いのような状態なのだ。
ずっと文句を垂れていた私が急に黙ったのが気になったのか、実に同タイミングで鬼灯とカノンが声をかけてきた。
「んー…もう、むりィ……骨は拾ってくれ…」
「は?ちょっと叶弥?」
遠のいていくカノンのテノールに、一応神様モドキなんだからなんとかならなかったのか、と思いながら私は意識を手放してしまったのだった。
「…いい加減君も分かってるんじゃないの?僕らが『普通』じゃないってこと。散々調べても何も分からなかったんでしょ?叶弥が君たちを脅かす存在に見えるの?」
程なくして縄を解かれたカノンは、酷い熱を出した叶弥を抱えて怒気を孕んだ声色でそう言い放つ。
「僕はいいよ、人間じゃないから。だけど叶弥は普通の人間だ。変わった能力はあったとしても、危害を加えられるようなものでもない。…君はもう少し物わかりがいいと思ってたんだけどね」
神様の端くれであるカノンの中から沸く怒りが、鬼灯にもわかるくらいにオーラとして漂っている。
見てくれは柔和な青年だが、内に秘めた力は計り知れない。
「あなたの方が危険そうですね」
そう言うと、鬼灯は右手に金棒を握りしめ、床をゴリ、と鳴らして威嚇する。