第5章 助く者は
片耳に下げたピアスを弄びながら、口角を上げて楽しそうに含み笑いをする。
叶弥と言えば、なにが思い違いなのか、嘘は言ってないぞと訝しがるしか出来ない。
「神崩れ、なんていう割には、彼からはかなり強い力を感じるんだよねぇ…ひとつ聞くよ。キミがここに来てどれくらい経ってるか知ってる?」
「え、数日…一週間くらい?」
「くふふ、やっぱりね。うん、ボクの予測は当たってたって訳だ」
何が言いたいのかさっぱり検討がつかない。
カノンが強い力を持っているとしても、それがこの世界に来た時間の経過と何の関係があるというのか。
眉根を寄せて白澤をじろりと見ると、やれやれと言わんばかりに肩を竦めて見せた。
「叶弥ちゃん。キミ、記憶を相当弄られてるよね。同じようにボクらも記憶を弄られてるみたいだけど」
「…なにそれ」
「没问题、その反応を見て確信したからとりあえずこれくらいでいいや。うんうん。今のところ皆問題ないみたいだし、さっきの台詞は忘れてね。あと、他言無用だよ」
半ば押し付けられたような言い方に不満もあるのだが、なんだかそれ以上突っ込めずにいた。
この神獣は何を知っていて何をさせる気なのだろう?
疑問ばかり浮かぶ叶弥そっちのけで、さきほどまでの真面目さはどこへやら、急にニヤニヤとし始める。
「ふふっ、ねえ、かわいいよねえその格好。ギュッてしたくなるよね、偽物の狐だけど悪くない」
「はぁ?アンタ頭大丈夫か」
真面目な話じゃないのか。
急に歯の浮くようなセリフに交えて変なことまで言われて、叶弥の顔は引き攣るばかりだ。
白澤というのはこんな奴なのか。
吉兆の神獣と称される彼だが、その素行は至ってだらしがない。
こちらの世界についてほんの少しの知識しかないが、しかしここまで神経に障るような物言いをする者とは思っても見なかった。
ぐし、と顔を擦って化粧を乱暴に落とすと、疑問を投げかける。
「私が叶弥だと、なぜ気づいた。…鬼灯ですら気づかなかったのに」
「ボクは神獣だからね。匂いでわかるのさ。というより、その姿でアイツと会ったの?」
「会ったもなにも、今この店にいるよ」
げえ、と露骨に嫌な顔をする白澤に思わず吹き出してしまう。
「似てるって言われてるみたいだけど、全然似てないよね、鬼灯と白澤って。真逆だし、面白い」