第5章 助く者は
「あ…うぶっ」
誰かを確認する前に、その白いものは身動き出来ないぐらいにグッと抱きしめてきた。
「んー!んううんんうんんんんー!!」
「…んもー、暴れないの」
頭上から降り掛かってきたのは、聞いたことがある緩くて甘やかな声。
そうだ、たしかこの声の主に頬の傷を治してもらったはず。
顔を上げたいのに頭に顎をのせているらしい、叶わずにひたすらもがくしかできずにいた。
その内抵抗を諦めてその胸に頭をあずけて大人しくなる。
鼻腔を仄かに擽ったのは、薬のような匂い。
「…薬臭い」
「よく言われる。自分じゃわからないんだけどねぇ」
あはは、と屈託のない笑い声がすると、緩められた腕からそっと上を伺った。
叶弥を見下ろす白澤の目は邪気を感じさせないものだ。
整ったその顔からは何を考えているのかは読み取れない。
にこやかに笑みを浮かべる裏をつい考えてしまうのは、叶弥のサガであった。
「なんかヤンチャな子犬を手懐けた気分なんだけど」
「手懐けられた覚えはない!鼻輪をつけて引き回してやろうか」
「こわーい!叶弥ちゃん、ちょっとアイツみたいだよね!」
アイツとは言わずもがな。敵とみなした奴に似ていると言わんばかりの口振りに、叶弥の目が据わる。
チッと舌打ちをすると、それを咎めるように口に人差し指を当てられた。
「ダーメ、女の子なんだからそういうことしちゃ」
「(なにがダーメだこのスケコマシ)…で、なんの用こんな場所に。妓楼ならここじゃないよ」
「んふ、あっちに用はないんだよねぇ。用があるのは、キ・ミ」
「……」
「疼!暴力反対!」
イチイチ気に触るとばかりに、叶弥は白澤の腕を抓り上げた。
茶番なのは薄々分かっていたので、用があるならさっさと言って欲しい。面倒事なら早く終わらせてしまいたいのだ。
両腕を振り払って白澤の言葉を待つように腕組みをする。可愛げのないその態度に肩を竦めると、白澤は向かい合ったまま壁に寄りかかった。
ふたりとも同じ姿勢のまま、睨み合うように少し距離が空く。
「担当直入に言うよ。キミ達って何?」
「何って…ちょっと変わった人間とか、そういう。カノンから粗方聞いたんじゃないのか、私も同じ回答しか出来ないよ」
「ふうん…じゃあ、ボクの思い違いかな?」