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クチナシ【鬼灯の冷徹】※不定期更新

第5章 助く者は


大歓迎だなんて本気にしてちょくちょく来るようにでもなったらどうするつもりなんだ。
内心悪態をつきながらも、間に入った檎にちょっとだけありがたく思っていたりしなくもない。なんといっても、こんな自分を匿ってくれるという貴重な存在なのだ。
・・・途中セクハラを働かれたのは解せぬこととして。
そんな叶弥の気持ちなんぞお構いなしに、表面上はにこやかに会話を進めていく彼らを溜息を吐いて見守っていた。
この世界に来てから幾度となく吐いてきた溜息。
いつぞや聞いた、溜息を吐くと幸せが逃げるよ、なんてセリフを鵜呑みにする訳では無いが、少なくとも今が『幸せ』ではないのは確かだ。
ちょいちょいと袖を引かれて振り返ると、ヤカンカンの看板をはる3人が奥の部屋を指さしている。

「なんか訳ありなんだろ?あの檎さんがアンタを庇うくらいなんだ。今のうちに引っ込んだらいいよ」
「あ、あぁ、ありがとう」

てっきり不評を買っているものだとばかり思っていた叶弥は、不意打ちを食らったように目を見開く。
この野干がトルティーヤだかなんだかまだ区別がつかないが、どうやら叶弥は人に恵まれ…いや、野干に恵まれているらしい。
檎に隠れたままそっとその場を離れると、気づかれぬように部屋の扉を閉めたのだった。

「はぁ…こっちに来てからろくなことがないな」

ズル、と扉に背をあずけたままその場に座り込んだ。
そのまま膝を抱えるようにして目を閉じる。
カノンがいれば百人力なのに。
いつも当たり前にいた存在を、今日ほど意識したことは無い。平気なフリはしているが、酷く心細い。
彼がいなければ、ダメなのだ。
自分の半身のような存在であり、家族や恋人、そういったものをゆうに超えているのがカノンなのだ。
裏表も好きも嫌いも愛憎全てを知って唯一受け入れてくれている。

「…一緒にいてくれないと、寂しいよ、カノン」

弱気な心に追い討ちをかけるように、室内に冷たい空気がよぎる。
少し身震いしてはたと気づく。
この部屋に、冷たい風が吹き込むような窓が果たしてあっただろうかと。

部屋の中を確認する為に立ち上がった途端、白い何かが叶弥に覆いかぶさって来た。
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