第5章 助く者は
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(くっ、厠を切り出すタイミングが見つからない……!)
誠心誠意、もとい必死な接客をする叶弥の頭は、いかにして早いとこ鬼灯の元から離れるか、終始それで占められていた。
フルチューンされた接客にはある程度自信がある。しかし、それがいつまで持つかという懸念があった。
元々ひどい面倒くさがりな上、燃費が悪いと来た。
燃料切れを起こせば最後、口の悪い自身が顔を出す。
そうなるまえに早く引っ込んでしまいたいのだ。
(すっごい疲れる、胃に穴が空く…!)
鬼灯がくれる視線や雰囲気にスキがない。牽制し合うようにも見える絡みに、檎も気が気ではなくなっていた。
叶弥と言えば、実はバレていて遊ばれているのではという懸念さえ生まれていて、それを押し込めて無理矢理笑顔を作ることで精一杯だった。
緊張の空気が、不意に途切れる。
「…いい新人を入れましたね。変化下手という特徴もいい客引きになると思いますよ、狐耳と尻尾、いいですねぇ、めっちゃモフモフしたい」
「モフっ…!?」
モフモフなんて言葉、あんたの顔には似合わなさすぎるだろう、危うく言いかけた言葉を飲み込むのが早いか否か、鬼灯はおもむろに片手を伸ばして耳に触れてきた。
間一髪、掠った程度で身をよじって避けることに成功する。
モフられるなんて冗談じゃない、狐耳も尻尾も付けているだけなのだ、何かの拍子に取れたら文字通り終わりになる。
「…すみません、女の子にしか触らせない主義なんです」
どんな主義だ、意味がわからない。
上手い言い訳も思いつかずに言ったそれに、果たして鬼灯は納得するのか。
空気が変わったのをこれ幸いとばかりに、何か言いかけた鬼灯を遮ったのは檎だった。
「すんませんなぁ、初日なもんで。それくらいで勘弁してやってくだせぇ」
叶弥の前に立つ檎は、自然と間に割って入るような形になる。
それはまるで、守ろうとしているようだった。
「随分過保護ですね…いえ、新人でしたか。私も少々遊びすぎました。申し訳ありません」
「いやあ、鬼灯さんならいつでも大歓迎!こいつもいい勉強になったと思いますわ」
いい勉強か、ある意味間違ってはいない。
檎の後ろで見えないのをいい事に、叶弥は先程までのスマイルを般若の顔へと変えていたのだった。
(大歓迎じゃないよ、お断りだ!)