第5章 助く者は
そう素っ気なく言いながらも、檎が向ける目はどことなく優しい。
新人と言えど大事にしているんだなと、その時鬼灯はそう思っていた。
「ああ、そうです。檎さんに用事があって来たんでした」
ポンっと手を打つと、ちょいちょいと手招きをして少し顔を近づけて話を切り出した。
「実は、人を探していまして」
「ふん?この檎ちゃんに分かることなら教えちゃるけど」
「これくらいの背丈で、髪が黒い赤目の娘を見ませんでしたか?足に怪我もしているようで、身なりも見慣れないものを着ているのですが」
「んんー、知らんなぁ。少なくとも今日は見とらんな」
腕組みをしてそう答える檎に、そうですか、とだけ言うと、近くの席にドッカリと座って煙管を取り出す。
(…こりゃあちっと居座る気やな。面倒な事になったわ)
気取られるような事はしていないはず。ましてや変化上手の檎が直々に変装を施しているのだ。
とにかく近付きすぎず離れすぎず、自然に振舞わないといけない。
叶弥と話をした時に分かったのは、やはり鬼灯から逃れようとしている、ということであった。
檎の憶測は当たっており、しかしあまり多くを語らない叶弥の心情を察してそれ以上突っ込んだ話はしなかった。
桃源郷にどうやら知り合いがいるらしい事と、叶弥自身の身寄りが他に無いことも分かった。
(そりゃそうか、生身の人間がこちら側の知り合いなぞおるわけもないか)
そうなると、桃源郷にいる知り合いも生身の人間なんだろうと考える。
随分昔に生身の人間が迷い込んだ話は耳にしたことはあるが、目の前の彼女とその知り合い二人ともがそうだとなると、異様な感じは拭えなかったが。
唯一の頼るべき人間と何かの拍子で引き離されてしまったのだろう。
桃源郷ならいざ知らず、地獄に取り残された彼女は不運と言わざるを得ない。
生身の人間に対してあの鬼灯が何をしたかは知らないが、叶弥が露骨に出した嫌悪感に、彼を問い詰めたい気持ちもある。
ただ、今はそれよりいかに彼女を匿いきって桃源郷へ行かせるか。檎の脳内はそれでいっぱいだった。
「休まれていくんですかィ?なら女の子付けましょうか」
「…そうですね、女性もいいですが。そこの話題の新人とやらを」
流石にこれには檎も顔が引きつってしまう。