第5章 助く者は
妓夫としていつもならこの長椅子にいるであろう、あの野干の不在に首を傾げる。
彼がいない時は別の者が出ているはずだが、今日はあいにくとタイミングが悪かったらしい。
いつもなら道場破り宜しくと店に乗り込んで聞く(脅す)のだが、店が店だ。
人探しとはいえ気軽に敷居を跨ぐ気も起きずに、鬼灯はさらに別の店へと目的地を変えたのだった。
「たしか、こちらでしたね」
足を向けたのは、あの野干、檎が経営を任された狐カフェの『ヤカンカン』だ。
以前は閑古鳥が泣いていたしがないホストクラブであったのだが、鬼灯の助言により経営方針をガラッと変え、昨今の世に足りない癒しを提供する店へと変貌を遂げたのだった。
(中々上手くやっているようですね)
以前のホストクラブは酷いものだった。
狙ったかのようにわざわざドS発言を繰り返す野干達に、灸を据えて引導を渡したこともある。
ドSだと公言こそしないものの、呵責する度にゾワゾワとした感覚を味わってきたので、これは実はそうなのかもしれないと思うようになって来ていた。
「ま、認めませんけどね。第一補佐官の看板を背負うだけで充分です」
独り言を言いながら、ヤカンカンの扉を開く。
外にいた時から中の活気はわかってはいたが、ふと一角の人だかりに意識が向いた。
そこだけ異様な空気を放っており、鬼灯の探し人である檎の姿も見て取れた。
「やはりこちらにいらしたんですね檎さん」
「あ、鬼灯さん」
「?」
一瞬、目が泳いだのを見逃さなかった鬼灯。
片眉を僅かに上げ、なにか言いたげに口を開きかける。
檎はそれを遮るようにして、一気にまくし立てた。
「いやぁ、今日は新人のお披露目でしてなぁ。野干の中でも一番ってぇくらい変化がヘッタクソなんで、お客さんに付けることはできんのじゃけど。挨拶がてら出してみたらの、意外とウケが良くてこの有様でのう」
檎が視線を向けた方に顔を向けると、なるほど、変化が下手というのは本当らしい。
耳と尻尾だけ残した不完全な姿で、困ったように頭を掻いている野干がお客は元より数匹の野干に囲まれていた。
独特の隈取りのような化粧をした野干は派手目の着物を着ており、無造作に結い上げられた髪がそれはそれで雰囲気が出ていて似合っている。ふと鬼灯に気づくと、ちょっと頭を下げて挨拶をした。
「まあ、雑用係みたいな事をさせてますわ」