第4章 異質な存在
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(檎、これ、恥ずかしいよ)
(クク、いやぁ、似合っておるよ)
狐喫茶ヤカンカンの奥で、叶弥は羞恥に顔を歪めていた。
匿う代わりとして下働きをすることになったのはいいのだが、今のこの姿は受け入れ難い。
キツネを模した耳と尻尾、変化が下手な従業員として働く設定らしいが、これは恥ずかしい。
体躯が細い叶弥は、しかし変装のお陰で女には見えない。申し訳程度についた胸をサラシで隠し、少し派手目の着物に袖を通していた。
「うんうん、これはこれでアッチの層にはウケそうじゃのお」
「どの層だ、私で遊んでないか」
「滅相もない」
中途半端な長さの黒髪を編み込まれて結い上げられ、顔には赤い化粧が施されている。
狐面のような仕上がり具合いにも見えて、これなら叶弥だとは分からないはずだ。
だがそれとコレとは別だろう、不服顔で檎を見上げる叶弥の頬はほんのりと赤く染まっているのだった。
「・・・で、これでとりあえず掃除とかそういうのやればいいんだよね?」
「うむ、呼ばれる以外はここに引っ込んでおっても構わん。鬼灯さんが万が一来た場合は、即刻ここに来たらええ」
まあそうそう顔を出すようなお人でもないがのう。そう言いながら煙管を弄んでいる檎の顔がやけに楽しげに見えるのは、気のせいだろうか。
「檎、近い」
ニマニマしながら覗きこむように叶弥を見つめている、彼の縦に開いた瞳孔は、照明が暗いせいか少し大きく開かれていた。
切れ長の目がどこか優しく見えてなんだか気恥ずかしい。
負けじと見つめ返すと、耳や手がフワフワとしていることに気づく。
「そうか、野干って狐なんだっけ。檎も狐なんだ、だからこんなにフワフワしてるのかぁ」
意識の対象が逸れて、柔らかそうな耳に手を伸ばす。
さわさわと両耳を撫でると、檎はくすぐったそうに瞳を閉じた。
「んー、耳を触られるのは慣れんからのう・・・」
「ごめん、嫌だった?」
「いーや」
一旦引っ込めた叶弥の両手を掴むと、再度自分の耳を触らせるように促した。あまりにも気持ちよさそうにするものだから、叶弥は少し笑いながら遠慮無く檎の耳を撫でて、つまんでしばしその感触を楽しむ。
不意に檎が顔を上げて、二人の距離が息がかかるほどに縮まった。