第4章 異質な存在
うさぎ漢方極楽満月を離れた白澤は、不意に立ち止まり自分の店を振り返る。
「…あれは何か隠してるね。この僕を欺こうだなんて万年早いよ」
飄々とした顔を引き締めた白澤に、いつものふざけた様子はない。
女好きの節操なしと散々な言われようだが、彼は神獣なのだ。
彼らに初めて会ったときに感じた違和感、異質な氣。
長い時を生きるこの神獣とて、世界の均衡を破る理から外れた存在を知らない訳では無い。彼自身が未だ出会ったことがないだけであり、それ自体は以前より仲間内で囁かれてきたのだ。
それが平穏をもたらすか、破滅をもたらすかは別として。
「まあ普通に考えたら、無いものが有るって状態が変な話なんだけどね。それだけで充分排除の対象なんだけど」
笑みを浮かべた白澤の目には、訝しんだような色が浮かぶ。
彼の膨大な知識を持ってしても、彼らの存在は不可解なのだ。
「確かめようか。叶弥ちゃんに直接、ね」
様子見と称して回りくどいやり方をして来たが、もう待てない。
パンドラの箱を開ける様な楽しみと畏れをないまぜにしながら、叶弥の気を探るべく、白澤は本来の姿を顕した。
真っ白な神聖な獣。
人型である時には感じない荘厳な雰囲気が、まさに彼が本物の神獣であることを見るものに悟らせるようであった。
たなびく鬣が柔らかく風に乗ると、ふわりと蹄を空に駆けてあっという間に空高く昇ってゆく。
ふたつの眼とは別に、額の第三の眼と腹の左右三つずつある計六つの眼が周囲を探るようにぎょろぎょろと動いた。
「…なんでまたあんな所にいるんだろうね。鬼灯の奴、ちゃんと監視しとかないと…『保護者』失格だよ」
前脚にグッと力を込めると、白澤は叶弥がいるであろう方向へ風のように飛び去って行ったのだった。
上空を見上げたカノンは、少し歯噛みをした。
基本的に見守るスタンスを崩さない彼は、命の危険がない限りは動く事は出来無いが、これ以上詮索されるのは勘弁願いたい所だった。
今までとは違い、記憶を保ったままの叶弥。それがどれだけ彼女の負担になっているのかを察すると、白澤がそれに気づかないことを願うばかりで。
せめてこの世界の流れに逆らわない事で事態の悪化を回避できればと思うのであった。