第4章 異質な存在
いつだったか、カノンも似たようなことを言っていたような気がする。
(『縁』か、そうか、そうかもしれないね)
あの時感じた、気を許してもいいかもしれないという直感。正直な話、誰かを受け入れられるほど寛容でいられる気もしないのだけれど。
これが縁であるなら、受け入れる努力をした方がいいんだろう。
カノンならそう言いそうだなと、今はそばにいない半身を思い、叶弥は深呼吸して檎と目を合わせた。
「あらためて、よろしくお願いします」
そう言ってどちらからともなく手を出して、握手をしたのだった。
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住みよい環境、一言で言うならここは正に読んで字のごとくな場所だ。
地獄のように殺伐とした空気などなく、そこに有るのは平穏そのもの。
桃源郷とは、どこの世界でも似たようなものなのか─カノンはかつて訪れた世界を思い起こしながら、やっぱり違うか、と即座に否定をすることになった。
桃の手入れをする桃太郎とカノンの目の前を、半壊して壊れた扉がゴゥと音を立てて通り過ぎていく。
((またか・・・))
ふたりがほぼ同時にため息をつくと、顔面を真っ赤に腫らした白澤がヘラヘラと奥から出てきたのだった。
「いやぁ、最近の女の子って力があるよねぇ、参ったなぁもう」
「アンタのタフさにこっちが参るわ」
「…ホントに懲りないね、この人」
桃太郎印の着いた三角巾を直しながらカノンはチクチクとした視線を向けた。
ふわふわと柔らかいプラチナブロンドの髪が揺れて、金の瞳が冷たく白澤を凝視すると、当の本人は涼し気な顔をしてふん、と鼻を鳴らす。
「カノン、ここに置いてもらってる立場だからね、君」
「従業員が働きやすい環境を作るのも、雇い主の義務だと思うんだけどね」
カノンの言葉にうんうんと頷いて同意する桃太郎を睨むと、僅かに頬をふくらませて白澤は不満顔になるのだった。
「で、僕が監視され続けて結構経つんだけど。叶弥はどうしたの?」
「さぁ…何にも連絡が無いしねぇ。君さ、ちょっと病気じゃないの?口を開けば叶弥、叶弥ってさ。正直ちょっと怖いよ」
「僕が病気なら君のは末期だね。というか僕が叶弥を気にかけるのは当たり前だから」
「ま、まあまあ2人とも…そろそろ休憩にしましょうよ」