第4章 異質な存在
「ちぐはぐじゃのう、叶弥」
「・・・」
素直じゃないというか、敢えて壁を作っているフシもあるというか。
叶弥よりずっと長く生きてきた彼が察しているように、叶弥自身は元来、他人とそこまで積極的にコミュニケーションを取りたがる方ではないのだ。
生きる術として割り切るやり方もある。
これまで記憶をなくして行き着いた世界では、生きる術の方を本能が優先してきたのだろう、今の彼女より断然可愛げもあるキャラだったと自負できる。
しかし。
「こっちが本当の私だ」
半ば言い聞かせるようにして返事とも取れぬつぶやきを吐いた。
カノン以外に心なんて開けるわけがない。
だけど、仕事、としての関係であるのなら割り切れるのに。
檎といえば、仕事だけの垣根を越えようとしている気がして、少し身構えてしまうのだ。
少し飄々としてとらえどころのなさも感じる檎に興味が有るのも本音。
どうしたらいいんだろう、カノンなら的確な答えをくれるだろうか?
中途半端に知識と経験が邪魔をして、素直とは程遠い自分。
・・・わがままだ。
「素直じゃないのは自覚している。だけど、どうしていいかわからないんだ」
ぽつりと弱々しく呟く。
檎はニッと笑うと、それもおぬしの味なところじゃろう、と言った。
「叶弥、どこから来てどこへ行くのかワシにはわからん。それを無理矢理聞き出す気もない。・・・まあ興味はあるがのう」
「それは」
「まあ聞け。袖振り合うも多生の縁と言うじゃろう?あの官吏様から逃げおおせてワシと会ったのも縁じゃと思わんか?」
黙ったまま叶弥は檎の言わんとする事を考えているようだった。
全く、この娘は捻くれ者じゃのう。そう思って微笑を湛える。
「少しづつでも慣れていったらええ。このワシが直々にスカウトまでしたんじゃ。足の傷も思ったより深そうじゃし、暫くはここで養生も兼ねて住み込みで働いたらええよ」
「・・・なんで、そこまでしてくれるの。見つかったらどうするの」
「そんなことは気にせんでもええって。なぁに、泥船に乗ったつもりで・・・アレ?」
「泥船じゃなくて大船。沈ませてどうする」
一寸の間を置いてふたりは同時に笑い合う。
一気に壁が氷解したような感覚に、叶弥は心なしかホッとしたのだった。