第4章 異質な存在
「オジヤです!」
「トルティーヤです!」
「ホヤです!」
「軒並み食されるものの名前とか何とかならなかったのか」
「叶弥、初対面なのに辛辣なコメントじゃのう…」
『狐喫茶ヤカンカン』
檎が現在任されているここは、以前はうだつが上がらないホストクラブだった。
鬼灯の提案により狐カフェへと変貌を遂げ、今では人気の店に昇格したという。
叶弥がいた世界にも似たような店はあった。
猫カフェやら果てにはフクロウカフェまであったので、そういう嗜好に偏見はないし寧ろ好きな方なのだが。
(狐かあ、うん。いや)
「まて、この中で下働きとか無理があるだろう」
私は化けられないぞ、と不満を漏らす叶弥をまあまあと制し、とりあえずは見学だけしろと一席に座らせられた。
しかしこの店、流行るだけはある。
男女問わずに賑やかな店内には、何匹もの狐が客をもてなしていた。
二足歩行をしながら接客に精を出す彼らは、至って勤勉なのだった。
下手なホストクラブよりずっと健全なのは確かなのだが、うっすらとした記憶を辿った叶弥はやや苦い顔をする。
確か、元締めはあの妲己ではなかったか。
以前渡った世界での妲己とは違う妲己だろうが、こちらの世界の妲己にはあまり良い印象がない。
いや、かといってあちらの妲己も良いというわけではないのだが。
叶弥は気だるげに机に肘をついて頬杖をつくと、その様子を見ていた件の3匹が檎の袖を引いた。
「新入りですか?にしてはなんかちょっと」
「俺達と同じニオイがしない」
「うんうん」
「・・・そんなでも野干は野干じゃのう。まあ、あれはちとワケアリでの。暫くウチで預かることにした」
こともなげにそう言うと、叶弥の向かいの席に檎は座る。
同じように頬杖をついてじぃとみていると、叶弥は不機嫌を露わにしてそっぽを向いた。
「まあ、变化できぬのはわかっておる。おぬしは人間であろう?それも生身の」
「多分、ね」
目を合わさぬままそう言い放つ彼女に、檎は少し溜息をつく。続いてワシの店はどうだ?と感想を求めた。
これは純粋に聞きたいというのもある。ついでに叶弥の言葉を引き出したい為でもあったのだが。
叶弥はまあ悪く無いと思うと当り障りのない返事をして実にそっけない。
なぜそうも壁を作りたがるのか。