第3章 無給労働
「幇助罪ですよ、2人とも。まったく・・・お咎めは後からする事にします。今は叶弥さんを見つけるのが先決です」
眉間のシワを深くしながら叶弥が去っていったという方向を見た鬼灯は、チ、と舌打ちをした。
「…あちらは衆合地獄ですね。お香さんは今日は非番なのでアテには出来ませんし。面倒なのに引っかからないといいのですが」
あの手この手の誘惑が多いその場所であの彼女がソレに引っかかるとも思えないのだが、念には念をだ。
指名手配という名の人探しを通達はしたものの、果たしてこの短時間でどれだけ周囲に情報を浸透できるか。
彼らとて暇なわけでもなく、仕事の合間に人探しをする余裕が果たしてあるのかどうか。
鬼灯という自身の名前の存在の強さを持ってしても、仕事の優先順位は基本的には変わるものでもない。
それがわかっているからこそ、鬼灯自身がこうやって出向いているわけだ。
金棒を脇に差し、ゆくべき方角へくるりと向き直る。
叶弥が言うことが嘘でないとして、彼女たちの存在にはどこかしら歪なものを感じていた。
欠けているものを無理やり埋めているような、そういう歪さを。
その奥に守られている秘密めいたものを感じ取った鬼灯は、不審だから捕らえて監視しておくという建前こそあれ、できることなら秘匿しておくべきだとも思っていたのだ。
(・・・まあ、あの性格では大人しくしているとも思えませんし、私も勢いで公衆の面前で小間使いみたいなことをやらせてしまいましたし)
自分でも若干冷静さを欠いた行動をしてしまったとも思うが、後の祭りだ。
今は連れ戻さないといけないと判断した鬼灯は不機嫌な顔のまま、叶弥が去っていったという衆合地獄へ向かって歩を進める。
脳裏には叶弥の傍らにいた優男が過ぎる。
カノンの存在が妙に引っかかっているのだ。
白澤に面倒を見ろと振ったのはいいが、あの遊び人のことだ。桃太郎に押し付けて花街に遊びに行ってしまうとも限らない。
「私としたことが、人選ミスをしたかもしれません」
どことなく空気が似通っていると思った鬼灯の判断だが、ソレが吉と出るか凶と出るか。
内心どうなるか見ものだと思っていた、自身の悪戯心があったことは否めない。
しかし、だ。
(もうちょっと、泳がせてみますか)
不敵に口元を歪めて、その歩幅を早めた。